2015年7月2日木曜日

キューバ、米国と正式に国交回復。ぴったりの映画『ハロー ヘミングウェイ』(キューバ映画1)

いまこそ見るべき映画。

キューバ映画『ハロー ヘミングウェイ』

原題:Hello Hemingway
監督:Fernando Pérez(フェルナンド・ペレス)
制作年:1990年

物語の設定は1956年。

公立高校に通う女の子イラリアの物語だ。

父親が逃げたために、生後間もなくイラリアは孤児院に預けられる。そのとき、出生証明書や洗礼証明書とは異なる姓で登録されたことが、あとあと響いてくる。

イラリアの母は、娘を孤児院から引き取ったものの、女中の仕事だけでは生計を立てられず、兄夫婦を頼ることにする。

こうしてイラリアから見て叔父夫婦との同居生活が始まる。そこには祖母と叔父夫婦の娘もいる。合計6人の所帯である。この家が、ヘミングウェイ邸のすぐ近く にあるという設定で、イラリアと従姉はヘミングウェイ邸に忍び込んでプールで泳ぎ、執事に睨まれ、ヘミングウェイには微笑まれたこともある。

祖母と母の協力でイラリアは高校に通うことができ、優秀な成績をおさめている。密かに思いの通じ合っている同級生ビクトルがいる。

イラリアはのちのちアメリカ合衆国の大学に留学したいと考え、先生に相談すると推薦状も得られ、審査を次々パスしていく。

アメリカへの留学に期待を寄せるイラリアは『老人と海』を読み進め、舞台となったコヒマルをビクトルや、もう一組の恋人たちと一緒に訪れたりする。

コヒマルへのダブルデートで行動をともにした友人役のエステラに、なんと現在は作家のウェンディ・ゲーラが起用されている(彼女については別のエントリーで触れた)。

前半はおおむねハッピー、ときにコメディタッチで展開する。プレスリーの歌を歌ったり、ヘミングウェイのブロマイドを部屋に飾るイラリア、イラリアの制服の布地を買うために大切な宝石を質に入れる祖母、従姉とのハバナ散歩などなど。

が、残念ながら後半は悲しい展開だ。

そもそもイラリアと母は、叔父夫婦宅に居候をしているようなもので、イラリアは、自分が穀潰しにすぎないことに気づいていく。哲文学部に進みたいと叔母と祖母に言うと大笑いされ、将来を考えてもっと実用的なことを勉強しろと言われる。

従姉には、早く学校をやめて働くように諭される。

アメリカ留学のことをビクトルに告げると、予想とは異なり喜んでくれず、結局、失恋する。

叔父マノーロが職(警察)を首になり、酔っぱらって帰宅したあと、家で大暴れして、家族に暴力をふるう。

居場所のないイラリアは住み込みで働いている母をたずねるが、その母からは「おまえに読み書きを教えたのは私だ」と恩着せがましいことを言われる始末。

いよいよ留学審査の最終面接の日が来る。周りは育ちのよいお嬢ちゃんお坊ちゃんばかりだ。その面接で、前述した姓の登録名が問題になり、担当の女性から、もう一通、しかるべき地位の人物からの推薦状が必要だと告げられ、合格は保留にされる。

保留とはいえ、イラリアに推薦状を書いてくれる人間が思い浮かばないのだから、事実上の不合格だ。

イラリアは思い切ってヘミングウェイを訪ねてみる。大雨のなか、崖をのぼり、苦労して玄関までたどりつく。しかし、応対に出た執事に、ご主人様はアフリカへ旅行中だと告げられ、最後の可能性は断たれる。

おりしも高校では自治会の再結成をめぐり、学生代表のビクトルは学校当局と揉めている。バティスタ政権末期で、革命運動が始まっており、カストロらの進軍の噂が高校生にも届いている。ビクトルの行動は革命運動と呼応するものだ。

イラリアは迷った末、ひとりで学校に入る。つまりビクトル派を裏切った。その後、ビクトルは警察に連行される。

高校を止めたイラリアは、結局、カフェの給仕係になる。

街は復活祭休暇で賑わうなか、イラリアは働いている。すると、アメリカ留学の審査官の女性がイラリアを認め、声をかけ、二言三言言葉を交わす。しかしイラリアは憤懣やる方ない様子で女を睨んだままだ。

奨学金は得られず、恋人も失ったイラリアはコヒマルの海辺で『老人と海』の一節を口にする……

さてこの映画におけるヘミングウェイとはアメリカ合衆国のことである。この映画は1990年に撮られている。冷戦が終わってキューバが苦境に陥ったときだ。

監督フェルナンド・ペレス(『永遠のハバナ』)は、そのときのキューバの状況にそくして、過去を参照しながら未来を思い描き、この映画を撮ったはずだ。いつかキューバはアメリカともう一度和解する、そのとき、キューバ人は言うだろう。「ハロー、アメリカ合衆国」と。

 映画から四半世紀が過ぎた。もはや「ハローヘミングウェイ(アメリカ合衆国)」は同じ意味をもたないかもしれないが、やはりキューバ人にとってアメリカは隣人なのだ。イラリアにとってヘミングウェイが隣人だったように。

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