2016年1月31日日曜日

キューバ文学(15)コストゥンブリスモ[風俗主義]短篇選集

キューバのコストゥンブリスモ短篇選集が出て来た。少し古い本。コストゥンブリスモは風俗主義としておこう。

Hortensia Ruiz del Vizo(ed.), Antología del costumbrismo en Cuba (prosa y verso), Ediciones Universal, Miami, 1975.

180ページぐらいの薄い本。

以下の作家の作品が収録。

Luis Victoriano Betancourt 1843 キューバ生まれ。

José Victoriano Betancourt 1813年 キューバ生まれ。

José María de Cárdenas Rodríguez

Álvaro de la Iglesia 1859年 スペイン・ガリシア生まれ。

Federico Villoch y Álvarez 1868年 キューバ・マタンサス生まれ。

Félix Soloni

Eladio Secades

Rolando Álvaro de Villa

José Sánchez-Boudy 1928年 キューバ・ハバナ生まれ。

Eduardo Le Riverand y Brussone 1904年 マルセイユ生まれ。

短篇以外に韻文が出ているので、そこからひとつ引用しておく。Álvaro de Villaの詩で、タイトルは「La guagua」、つまり「乗り合いバス」。

En una tarde cualquiera
la guagua paró en la esquina,
y montó una veterana
con pretensiones de niña.
Llevaba el pelo teñido
de tonalidad rojiza
y las masas apresadas
entre las fajas que afinan.
Su perfume era de flores,
mirar de coquetería
y esperanzas en el alma
de amores y de conquistas.
Al “¡Dale que ya montó!”
replicó la campanilla
y vino el “¡pasito alante!”
y el “¡déjame ahí en la esquina!”
La guagua estaba repleta
-la de atrás viene vacía-
y la mujer va de pie
junto un flaco que la mira.
De pronto para la guagua
cuando aquella mujer grita:
-¡Rascabucheando a una dama,
Policía, policía!
Y el flaco con dignidad
y con altivez musita:
-¡No me ofenda usted, señora,
que yo soy un carterista!


キューバのコストゥンブリスモについては、アヤクーチョ版があるので、おそらくそちらのほうがいいのだろう。これは573ページある。

2016年1月26日火曜日

研究会 文学の移動/移動の文学①

研究会のお知らせ

2016年1月27日 14時半〜17時半
場所:東京外国語大学総合文化研究所

発表者は以下の3名。
久野量一
 「アナ・リディア・ベガ・セローバ : ハバナ- モスクワ- ハバナ」
和田忠彦
 「イタロ・カルヴィーノ : 旅する作家、旅する書物」
沼野恭子
 「リュドミラ・ペトルシェフスカヤ : 異次元への移動」

 

2016年1月17日日曜日

キューバ文学(14)女性作家短篇集

どこかで買ったものの、すっかり存在を忘れていた現代キューバ女性作家短篇集が出てきた。

Valle, Amir, (Selección, prólogo y notas), Caminos de Eva: Voces desde la Isla: Cuentistas cubanas de hoy, Editorial Plaza Mayor, San Juan, Puerto Rico, 2002.

編者のアミール・バジェは1967年生まれのキューバ作家。現在ベルリン在住でウェブマガジン「OtroLunes」(もう一つのルーネス)を発行している。

「もう一つのルーネス(月曜日)」は、革命後に出ていた新聞「レボルシオン(革命)」紙の月曜版別刷「ルーネス」を受けて名付けられたのだろう。

それはともかく、このバジェ編のキューバ女性作家短篇集に出ている作家を列挙しておこう。生誕年順に22名が並んでいる。

1936年生まれから1983年生まれまで。2016年の時点で(本が出たのは2002年だが)、上は80歳から下は33歳までということになる。

カタカナ表記はスペイン語読みに準じたので、実際にはこのように発音されていないかもしれない。

マリア・エレナ・ジャーナ María Elena Llana(1936年生)

アナ・ルス・ガルシア・カルサーダ Ana Luz García Calzada (1944年生)

ミルタ・ジャニェス Mirta Yáñez(1947年生)

ナンシー・アロンソ Nancy Alonso (1949生)

カルメン・エルナンデス・ペーニャ Carmen Hernández Peña (1954年生)

マリリン・ボーベス Marilyn Bobes (1955年生)

ヒーナ・ピカール・バルーハ Gina Picart Baluja (1956年生)

フェリシア・エルナンデス・ロレンソ Felicia Hernández Lorenzo (1957年生)

アイダ・バール Aida Bahr(1958年生)

マリア・リリアナ・セローリオ María Liliana Celorrio (1958年生)

オネイダ・ゴンサレス Oneyda González (1961年生)

アデライダ・フェルナンデス・デ・フアン Adelaida Fernández de Juan (1961年生)

ミレーネ・フェルナンデス・ピンタード Mylene Fernández Pintado (1963年生)

マリエラ・バローナ Mariela Varona (1964年生)

アナ・リディア・ベガ・セローバ Anna Lidia Vega Serova (1968年生)

ライリー・ペレス・ネグリン Laylí Pérez Negrín (1970年生)

レベーカ・ムルガ Rebeca Murga (1973年生)

グレイビス・コーロ・モンタネー Gleyvis Coro Montanet (1974年生)

ソウレーン・デラミーコ・シルータ Souleen Dell'Amico Ciruta (1974年生)

アイマラ・アイメリック Aymara Aymerich (1976年生)

アグニエスカ・エルナンデス・ディアス Agnieska Hernández Díaz (1977年生)

スサーナ・アウグ Susana Haug (1983年生)

2016年1月7日木曜日

麻薬密売[1月12日、8月31日追記]

メキシコの麻薬密売については、映像や文学、テレビを通じてエンターテインメント化されている。

そういえば、映画『皆殺しのバラッド』の原タイトルはNarco cultura(ナルコ・クルトゥーラ:麻薬の文化)で、最近では「Literatura del narco(麻薬取引を主題とする文学)」という用語もあったりする。(「ナルコクエントス narcocuentos」[麻薬関連短篇集]という短篇集もある。)

いまから10年くらいまえ、コロンビア人と話しているときに、麻薬取引を主題にした文学作品は大きなジャンルをなし、それは研究に値すると言っていた。

メキシコものの流行と関係があるのだと思うが、最近パブロ・エスコバルについての物語がやたらと出ている。

映画『エスコバル:楽園の掟』が公開間近であると思っていたら、アメリカではすでに公開済みである。ベニチオ・デル・トロがパブロ役を演じている。日本でも2016年上半期に公開されているが見逃した。

Netflixのオリジナル作品である『ナルコス』はフィクションと断っているが、エスコバル本人の映像まで出てくるので、ノンフィクションと言っていいのではないか。こちらはブラジル人のヴァグネル・モウラがパブロ。

さらに、これもNetflixで、『Los tiempos de Pablo Escobar(パブロ・エスコバルの時代)』というドキュメンタリーがある。

全部見たわけではないが、エクトル・アバッド・ファシオリンセ(作家)、フアン・ゴサイン(ジャーナリスト)、カルロス・ガビリア(元大統領) などが80年代、麻薬カルテルが出て来たころのメデジンについて証言し、また映像ではエスコバルらの当時の様子が紹介される。

かつて、コロンビアの麻薬ものの本では、『キング・オブ・コカイン』という2巻もののルポがあった。あるいは『パブロを殺せ』か。読んでいると気が重くなって飛行機に乗りたくなくなってくる。

そんな時代が終わってほっと一息ついたと思ったら、エンターテインメントとしてこんなによみがえってくるとは。この話題をラテンアメリカ研究者と話してみて、意見が一致したのは、作り手はどこかパブロ時代にノスタルジーを抱いているということだ。

実際、パブロがいたころのほうが景気がよかったというような話は聞いたことがある。

こういう「あの頃はよかった」的な過去のとらえかたは、ものすごく感染力が強いので、ついどんなことにでも同じように適用してしまいかねない(だから注意したい)。

「Aquellos tiempos(あの頃)」と来たら「よかった」となる決まりなどないはずだ。

あの頃は最悪だった。

(この項、続く)

[1月12日追記]

その後、Netflixのプログラムを見ていたら、「パブロ・エスコバルーー悪魔に守られた男」というドラマもあった。これはコロンビアのテレノベラ「Escobar, el patrón del mal」。

[8月31日追記]
ベニチオ・デル・トロがパブロ・エスコバルを演じる『エスコバル:楽園の掟』を見た。原題は「Escobar: Paraíso perdido」。イタリア人Andrea Di Stefano監督。

カナダ人のサーファー(ニック)がコロンビアに遊びに来て、恋人ができるが、それがエスコバルの姪にあたるという設定。

ニックの視点からエスコバルが語られる。ニックは躊躇しながらもエスコバルと親しくなっていくが、最後には裏切られる。

エスコバル(ベニチオ・デル・トロ)は、映画のど真ん中に出てくるというよりは、ニックの怯えによって常に暗い存在を感じさせるという役割。