2021年7月31日土曜日

朝鮮戦争とプエルト・リコ

プエルト・リコ作家も朝鮮戦争を書いている。

実際に戦地に行った作家として、エミリオ・ディアス・バルカルセル(Emilio Díaz Valcárcel, 1929-2015)。短篇「帰還(El regreso)」がよく言及される作品。未読だが『ナパーム(Napalm)』という小説もある。

もう一人はホセ・ルイス・ゴンサレス(José Luis González, 1926-1996)。ドミニカ共和国で生まれ、小さい頃にプエルト・リコに移って教育をうけ、米国をへて、その後メキシコへ。

彼の「開けられない鉛の箱(Una caja de plomo que no podía abrir)」は、朝鮮戦争に行ったプエルト・リコ兵士の遺骸が「鉛の箱」に入って戻ってくる話。米国政府から息子の消息を知らせる電報が英語で届き、それを読む母。やがて米国旗に包まれて帰ってくる「箱」。

斎藤真理子さんの韓国現代文学入門は、韓国作家、在日コリアン作家が描いた朝鮮戦争作品を多数紹介している。

以下は、プエルト・リコの文学作品アンソロジー。文学論、長編小説の断片、短篇、詩まで入っていて便利。

 

キューバの雑誌「Casa」は、70号(1972年)でプエルト・リコ特集を組んでいて、エミリオ・ディアス・バルカルセルの短編を載せている。NYに着いたばかりのプエルト・リコ人が、映画『ウェスト・サイド物語』を憎んでいる。なぜなら、プエルト・リコ人だとわかるとすぐにこの映画の話になるから。

 


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7月31日と8月1日はオープンキャンパス。昨年に引き続きオンライン。
ネットで調べると対面でやっている大学もあるようです。

大学で予定されていた、8月9月のワクチン接種は供給がなく中止になりました。

7月に入ってワクチンの供給不足が明らかになった時に、政府が示した見通しということで、8月9日以降には解消されるという話がありましたが、なんの根拠もなかったということですね……1回目のワクチンを受けて帰省しようと計画していた人たちもいると思われます。

信用できる情報がない状況というのは、かなりまずいですね。

2021年7月19日月曜日

1966年ニューヨーク 国際ペンクラブ会議

1966年6月12日から18日、ニューヨークで第34回国際ペン大会(年次総会という言い方がいいのかもしれない)が開かれた。当時の米国のペンクラブ会長はアーサー・ミラー。

時代は冷戦下、1952年の移民国籍法(マッカランーウォルター法)によって、米国に共産主義者は入国できなくなっていた。

1966年の国際ペン大会は、その米国で開かれ、キューバ革命後ということもあって、ラテンアメリカ作家、キューバ作家の立ち位置の違いがはっきりとあらわれた。

この会議の模様を前後の文脈を踏まえて論じたのが、以下の本の2章。ずいぶん前のエントリーで少しだけ触れたことのある本。

Deborah Cohn, The Latin American Literary Boom and U.S. Nationalism during the Cold War, Vanderbilt University Press, Nashville, 2012.

 


この会議に出席するために米国を訪れたのはパブロ・ネルーダ。そして彼の会議出席を咎めたのがキューバ作家たち。キューバ作家協会(UNEAC)は公開書簡を出している。それはCasa de las Américasの機関雑誌「Casa」の38号に掲載され、たとえば、ここ(ネルーダ関係のアーカイブ)でも読むことができる。

当時キューバのペンクラブ会長はアレホ・カルペンティエルで、彼は最終的に出席を取りやめた。米国が主導する左翼去勢政策(castration)には乗らないというのがキューバ作家の立場。

カルロス・フェンテスもこの会議に出席している。その時の経験を書いたのが2003年のこちら。元は「Encuentro」誌に掲載されている。フェンテスはキューバの頑迷な態度に失望。

出席したラテンアメリカ作家たちは、マッカーシズムの終焉と受け取ったが、キューバはそうではなかった。


実はこの会議が開かれているのとほぼ同時期にスキャンダルがあった。それはウルグアイのエミル・ロドリゲス・モネガルがパリから出している雑誌「Mundo Nuevo」がCIAの資金提供(もっと細かくいうと、文化自由会議CCFを通じて)を受けているのではないか、という報道があった。

この「Mundo Nuevo」誌は『百年の孤独』が出版される前に部分的に先行掲載するなど、当時のラテンアメリカ文学を広く知らしめるのに大きな役割を果たしていた。その雑誌が米国の左翼去勢政策と繋がりがあったとは・・・というわけだ。

エミル・ロドリゲス・モネガルについて、レイナルド・アレナスはこう書いている。

「僕はエミル・ロドリゲス・モネガルという人物には格別の敬意を払わなくてはならない。偉大な文学の愛好家であり、並外れた学究的な美点を超える直観力がそなわっていた。この人は月並みな意味での教授ではなかった。偉大な読者であり、自分の弟子たちに美への愛を教え込む不思議な力を持っていた。一つの学派を残した、合州国でただ一人のラテンアメリカの教授だった。」(『夜になるまえに』p.394)

1960年代のラテンアメリカ文学の流れを作っていた雑誌がこの「Mundo Nuevo」と、キューバの「Casa」である。「Mundo Nuevo」が文化自由会議、「Casa」はキューバ政府と、どちらも後ろ盾のある文芸誌ということで、この二つの雑誌の比較は昔からあるが、先日分厚い研究書が出た。手元の版は2017年の本だが、初版は2010年とのこと。

Idalia Morejón Arnaiz, Política y polémica en América Latina: Las revistas Casa de las Américas y Mundo Nuevo, Almenara, 2017.

 

日本のペンクラブの会長は1965年に川端康成から芹澤光治良へ。1966年NY大会の日本側の出席者はわからない。

2021年7月15日木曜日

セサル・M・アルコナーダ『タホ川』/7月15日

セサル・M・アルコナーダはスペインの作家。1898年に生まれ、1964年没。ロルカやブニュエル、ダリと同世代だ。ちなみに生誕年は、下の『タホ川』の序文では1900年になっている。

若い時からジャーナリズムの世界で多くの雑誌に関わった。音楽や映画への関心も高く、ドビュッシー論で一冊本を書いている(1926年)。ウルトライスモの時代でもあって、1929年の『グレタ・ガルボの人生 Vida de Greta Garbo』にはその影響が見られるという。ちなみにこの本はここですべて閲覧可能。

1931年共産党入党。スペインにおける社会主義リアリズムの代表的作家になる。関連する文芸誌に寄稿したり、テスティモニオ風の小説を書いたり。

1938年、『タホ川』を書き上げるが、出版されたのは1970年のモスクワである。スペイン内戦の人民戦線の大義を称賛した叙事詩的作品とのこと。

アルコナーダは1939年、人民戦線敗北で亡命する。いっとき、フランスの強制収容所にセルバンテスの本を持って入った。同じ年にモスクワに移り、そこでも文芸誌に関わる。ソ連にはスペイン研究者にして翻訳者のFedor Kelinがいて、活動をともにした。おそらくこの人物とは1935年、パリの国際作家会議で知り合ったものと思われる。

モスクワでは『スペインは無敵である España es invencible』(1941)や、『マドリード短篇集』(1942)を出したり、ロシア文学の翻訳も手がけた。1964年モスクワで亡くなった。

日本語で彼に関する言及はほとんどないと思われるが、パリで開催された、その1935年の第1回文化の擁護のための作家会議に出ていたために、以下の本に1箇所発見できた。

『文化の擁護 1935年パリ国際作家大会』法政大学出版局、1997年。

 この本には詳細な人名リストがついていて、スペインからはバリェ・インクランとラファエル・アルベルティが出ている。そして「アルベルティが不在の時はアルコナーダが代わりを務める」(p.656)とある。アルコナーダに関する貴重な言及ではある。

しかし残念なことに、この会議におけるスペイン側の報告は、バリェ・インクランの報告もテキスト未発見、スペイン劇作家グループのテキストも未発見とあり、スペイン側の報告は載っていない。

ちなみにこの会議には、キューバからはフアン・マリネーリョ(Juan Marinello, 1898-1977)が出ている。彼も当時のキューバの知識人で前衛雑誌「Revista de Avance」に関わっていたし、共産党員だった。

 


César M. Arconada, Río Tajo, Akal Editor, 1978, Madrid.

Akal出版(Akal Editor)とは、ラモン・アカル・ゴンサレス氏(1940-)が作った出版社。


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7月14日、直木賞受賞作に「テスカポリトカ」(作者は佐藤究さん)とあって、おや、メキシコ?と思ったらそうでした。これは読んでみたい。

7月15日付の朝日新聞に、加藤陽子氏のインタビューが載っています。鋭い指摘がたくさんありました。

2021年7月11日日曜日

オブローモフ帝国/7月11日

キューバ作家のカルロス・A・アギレラ(Carlos A. Aguilera)は、1970年生まれ。
1997年から2002年まで、キューバの雑誌『Diáspora(s)』の編集に関わっていた。

詩人に与えられるダビド賞を受賞したことがあり(1995年)、詩集も何冊か出している。うち一冊のタイトルは「Das Kapital」。

21世紀に入ってから奨学金を得てドイツへ。しばらくドイツに住み、現在はチェコ・プラハ在住。フロリダのスペイン語新聞「El Nuevo Herald」によく原稿を書いている。

その彼の小説が『オブローモフ帝国』(2014)。この作品についての「El Nuevo Herald」のインタビューはこちら

Carlos A. Aguilera, El imperio Oblómov, Ediciones Espuela de Plata, 2014.

 

まだ届いたばかりで飛ばし読みもしていない。タイトルはゴンチャロフの小説から来ているが、「オブローモフ」とは、ソ連や東欧を含めた「東」のことを指しているようだ。

冒頭だけ引用すると、「東に対する私の憎しみについて、東が象徴するすべてに対する私の憎しみについて、あの時代の思い出の一切に対する私の憎しみについて語ろう」とある。

この作家には他にも、中国ネタの小説(Teoría del alma chinaというタイトル)もあって、その本を論じたのが、ブエノスアイレスでお世話になった、グアダルーペ・シルバ(Guadalupe Silva)さん。

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7月11日、雷雨のあとの空は綺麗でしたが、梅雨明けはまだ先と思われます。

ご近所さんとたまたま出会って立ち話。美術館やギャラリー巡りが趣味の方で、コロナ第一波の時にほとんどの美術館が閉じてしまい参ったが、今は開いているものの、出かけるのが億劫になって出かけていないそうだ。わかる。こちらも映画館から足が遠のいた。


東京の緊急事態宣言は4度目。
 
1度目は、2020年4月7日から5月25日まで。
2度目は、2021年1月7日から3月22日まで。
3度目は、2021年4月25日から6月20日まで(最初の予定では5月11日まで、ついで5月31日まで、そして6月20日まで)。
4度目は、2021年7月12日から。予定では8月22日まで。