2019年6月29日土曜日

近況:コンラッド研究

『コンラッド研究』10号が届いた。


2017年11月の日本コンラッド協会年次大会で行なった講演原稿を大幅に加筆修正したもの。

タイトルは「コンラッド『ノストローモ』を書き直すことーフアン・ガブリエル・バスケス『コスタグアナ秘史』」

コンラッドといえば光文社古典新訳で『シークレット・エージェント』が高橋和久訳で出たばかり。

『コスタグアナ秘史』を読むならその前に『ノストローモ』を読まねばと考え、その『ノストローモ』を手にとって、分厚さにぎょっとして躊躇してしまう人も多いだろう。

毎日少しずつ読んで、ひと夏かけて読み切ったが、暑かったのかそれ以外のことはほとんどしなかった記憶がある(といったってほかにももなにかはやったのだろうが)。

読み切れたのは、読めば読むほどにコロンビアの沿岸部の風景が頭に浮かんだからというのもある。

2019年6月24日月曜日

6月最後の1週間

6月も残りあと1週間、夏至が過ぎた。

紫陽花は綺麗に咲いている。



雨が降り、太陽がそそぎ、夕方が長いこの時期、1年のほかの時期と同じように、あらゆることが起きる。

当たり前のようにして人は生まれるし、死ぬし、そんなことには気をとられてばかりもいられない仕事の正念場であったりもする。

海外だと、この季節はすでに休みに入っているところもあると思う。

こういう日々は夕方の雷やゆっくり暗くなっていく遠景を、いつまでも眺めていたいものだ。

レイナルド・アレナス『夜になるまえに』を引用しよう。

「川」

「時がたつにつれ、川はぼくにとっていちばん謎めいた場所になった。川の水はひどく曲がりくねったところを進み、まっさかさまに落ち、黒い水たまりを作りながら海へと向かった。

雨が降り嵐が来ると、川は鳴り響き、その轟音が家まで届いた。激怒しながらもリズミカルな音をたて何もかも押し流した。

やがてぼくはその川に近づき、泳げるようになった。

百合川という名だったが、岸辺に百合がはえているところは一度も見たことがなかった。忘れられない一つのイメージを与えてくれたのがその川だった。

6月24日、聖ヨハネの日のことだが、その日には田舎に住む者はみんなその川に水浴びに行かなくてはならなかった。

洗礼という昔ながらの儀式は泳ぐ者たちにとってはお祭りに変わっていた。祖母や同じ年頃の従兄弟たちといっしょに川辺を歩いていると、30人あまりの男が裸で泳いでいるのが見えた。

地区の若者がみんなそこにいて、岩の上から川に飛び込んでいたのだった。(後略)」

ふと気になって、アレナスの誕生日を、夏至に近いだろうと思って調べてみたら、7月16日生まれだった。当たらずとも遠からずといったところか。

今日は6月24日。

2019年6月20日木曜日

キューバ革命とアメリカ・ニューレフト(ラファエル・ロハスの本)


以下は、ラファエル・ロハスの本『ユートピアの翻訳者ーキューバ革命とニューヨークのニューレフト』の第5章の冒頭。

「1959年1月、キューバ革命が勝利をおさめたころ、アメリカ文学でもう一つの革命の火蓋が切られた。ビート・ジェネレーションの美学的叛乱である。1956年、ローレンス・ファーリンゲッティはアレン・ギンズバーグのノート『咆哮(Howl)』をサンフランシスコで出版してスキャンダルを巻き起こし、それは合衆国の裁判所に行き着くことになる。翌年、ギンズバーグの詩集をどう扱ったものか、批評がまだ定まっていないとき、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』がニューヨークのヴァイキング・プレスから世に出た。ハバナにおける革命勝利の最初の年、パリではウィリアム・S・バロウズの『裸のランチ』、麻薬中毒者ウィリアム・リーによるアメリカ合衆国、メキシコ、タンジェへの旅行記が出版された。Todd F. Tietchenがほのめかしているように、二つの革命の道筋が交差し、直ちに離れ離れになることは避けがたいことであった。キューバ革命に熱狂し、キューバの社会および政治過程を直接体験したビート・ジェネレーションの作家は多い。Tiethchenはとりわけ、ローレンス・ファーリンゲッティとアミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)、Marc Schleifer、そしてもちろんアレン・ギンズバーグを強調している。この4人の作家はキューバ公正委員会のメンバーだった(後略)。」

上の引用は以下のスペイン語版をもとに訳した。

Rafael Rojas, Traductores de la utopía: La Revolución cubana y la nueva izquierda de Nueva York, Fondo de Cultura Económica, Ciudad de México, 2016.
 
 

書誌データを見ていたら、オリジナルは英語版(Título original...)との記載がある。で、英語版の5章を開いてみると、少々違っている。

例えば、上のスペイン語版では『咆哮』を出版したシティ・ライツの名前はないが、英語版にはある。それに英語版では、『咆哮』も『裸のランチ』も裁判がわいせつ性をめぐるものだったことも書いてある。スペイン語版にはobscenidad(わいせつ)という表現は出てこない。


英語版の書誌データは以下の通り。

Rafael Rojas, Fighting over Fidel: The New York Intellectuals and the Cuban Revolution, (translated by Carl Good), Princeton University Press, Princeton and Oxford, 2016.



第5章の章タイトルは、スペイン語では「Lunas de Revolución」と、週刊紙「Lunes de Revolución」をもじっている。

本のタイトルもスペイン語版と英語版は違っている。英語版は「フィデルをめぐる闘い」といったところだろうか。

2019年6月1日土曜日

キューバ読本(The Cuba Reader, revised and updated)[追記2019年12月2日]

The Cuba Readerが改訂されていた。

前のは2003年に出たものだった。

The Cuba Reader, (Aviva Chomsky, Barry Carr, Pamela Maria Smorkaloff, editors)), Duke University Press, Durham and London, 2003.

編者のひとり、Aviva Chomskyはノアム・チョムスキーの娘。


明石書店の『〇〇を知るための〇〇章』と似てはいるが、こちらは必読文章のアンソロジー。

キューバの場合、コロンブス航海誌からホセ・マルティ、カストロ、ゲバラはもちろん、フェルナンド・オルティス、フェルナンデス=レタマールほか、歴史、政治、文化に関する重要な文章がピックアップされているのでとても便利。小説の断片や詩や歌もあるし。『低開発の記憶』は最後のミサイル危機のシーンだけ。

こういうのを全部版権とって翻訳するというのも、考えてみればよくやるなあと思う。

で、下のが新しい改訂・アップデイト版。

The Cuba Reader(Second edition, revised and updated), (Aviva Chomsky, Barry Carr, Alfredo Prieto, Pamera Maria Smorkaloff, editors), Duke University Press, Durham and London, 2019.

新しくキューバ人で作家・ジャーナリスト・ライターのアルフレド・プリエト(Alfredo Prieto)が加わっている。


 新しいエディションでは、当然、フィデル後、米国との和解後の章が設けられている。よくみると、旧・新版ともに、マーガレット・ランダル(Margaret Randall)が2章担当している。

この「読本」では「コロンビア・リーダー」も結構みる。と言っても2017年に出たばかりだが。


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ラテンアメリカ・カリブ研究』第26号で、自著紹介をさせていただきました。機会をくださった編集委員の皆様、ありがとうございます!

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2019年12月2日の追記

本を整理していたら、「チリ・リーダー」も出てきた。

The Chile Reader: History, Culture, Politics, Duke University Press, 2014.