2017年8月25日金曜日

ドゥルセ・マリア・ロイナス

キューバの詩人のドゥルセ・マリア・ロイナス Dulce María Loynaz。

彼女は1903年生まれで、1997年に亡くなった。ハバナのベダード地区の大邸宅に暮らしているのは、ドキュメンタリー映画『ハバナ』で見た。

父は独立派の軍人・政治家だったエンリケ・ロイナス・デル・カスティーリョ。1898年の戦争に参加。

1920年に初めて「La Nación」紙に詩を発表。17歳の時だ。

ハバナ大学で法学を収めた。

彼女の1953年の詩集には『題名のない詩 Poemas sin nombre』というのがある。

Loynaz, Dulce María, Poemas sin nombre, Aguilar, Madrid, 1953.



全部で124篇の詩が入っていて、キューバ島の自然をテーマにしたものも多い。

Los ríos de la isla son más ligeros que los otros ríos. Las piedras de la isla parece que van a salir volando...
島の川はほかのところの川よりも軽いし、島の石ころは飛んでいきそうよ。 (Poema CI)

ロルカがキューバに来た時に彼女の家を訪れている。その時のことを語るロイナス

彼女をめぐるドキュメンタリーはこちら50年代のベダード地区の紹介ビデオも面白い。

2017年8月19日土曜日

映画『エルネスト』

映画『エルネスト』は 10月に公開される日本・キューバ合作映画。
監督は阪本順治。

監督によれば、広島(のゲバラ訪問)とフレディが出発点にある。

「当事者」と「傍観者」の問題を、映画『エルネスト』(トレイラーはこちら)は考えさせる。

ポスターでもわかるが、オダギリジョー演じるフレディ前村ウルタードの深刻な表情が、この映画の最大の魅了であり、見ている者にとって最大の悩みではないか。ゲバラの表情も同様だ。

あの表情をどのように受け止めたらよいのだろう。
 
2016年3月にオバマがハバナを訪れたときの演説(スペイン語版)はまだ読める(こちら)。この演説は宛先がはっきりしていた。「キューバ国民へ」と書かれている。

演説の場所はハバナ大劇場(Gran Teatro de La Habana)。メイン・ホールの名前から、ガルシア=ロルカ劇場とも言われている。1838年に開館した当時の名前はタコン劇場。アメリカ大陸で最大の劇場だった。

広島といえば、オバマが広島を訪れたときの(問題を起こした)演説のスペイン語版は見当たらない。英語版はこちら

ゲバラのエピソードから始まる『エルネスト』で、アメリカ人は「ヤンキー」と呼ばれていた。当然「デキシー」ではない。

今年はゲバラが死んで50年。公開日は命日に合わせているのかもしれない。

2017年8月15日火曜日

パブロ・ラライン、ジャッキーとネルーダ

パブロ・ラライン監督の2016年の映画は『Jackie』。

邦題は『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』となっている。トレイラーはこちら

ジャクリーンはダラスに降り立つ直前、スペイン語で挨拶の練習をしていた。Youtubeには、彼女がメキシコで挨拶する映像が残っている。

ララインはチリ出身。1976年生まれ。両親はともに政治家(右派)。

映画『No』は2012年の映画。

その彼が2016年に撮ったもう一本の映画が『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』。原題は『Neruda』。スペイン語版のトレイラーはこちら

これが日本で11月に公開される。

訳あって、すでに見ることができた。

詩人パブロ・ネルーダの伝記映画のようなタイトルだが、実際には1948年ごろのみを扱っている。

逮捕状が出ていて、地下に潜り、逃げていた時代だ。『No』のガエル・ガルシア=ベルナルがネルーダを追いかける。

イタリア映画『イル・ポスティーノ』のエピソードはその後、ヨーロッパに現れたネルーダなので、続けて見ると、流れがわかる。

2017年8月13日日曜日

短篇の書き方

長篇の書き方マニュアルがあるのかどうかは知らないが、短篇の書き方についてはラテンアメリカでは結構ある。

その中で入手したのがこれ。若手作家の短篇論。

El arquero inmóvil: Nuevas poéticas sobre el cuento, Edición de Eduardo Becerra, Epílogo de Ricardo Piglia, Páginas de Espuma, Madrid, 2006.




編者のエドゥアルド・・ベセーラはスペインの文学研究者。エピローグを書いているリカルド・ピグリアは2017年1月に亡くなったアルゼンチンの作家・批評家。

書き手を列挙しよう。総勢で22名。知らない人が多い。

Cristina Fernández Cubas
Javier Vásquez
Marcelo Cohen
Ana María Shua
José Ovejero

Guillermo Fadanelli
Ángel Zapata
Martín Rejtman
Hipólito G. Navarro
Fernando Iwasaki

Mercedes Abad
Sergio Gómez
Rodrigo Fresán
Eloy Tizón
Pablo Andrés Escapa

Álvaro Enrigue
Karla Suárez
Ronaldo Menéndez
Cristina Cerrada
Mercedes Cebrián

Juan Gabriel Vásquez
Andrés Neuman

2017年8月7日月曜日

フェルナンド・バジェホ違い

映画『愛の断片』は、コロンビア作家エクトル・アバッド・ファシオリンセの『秘めやかな愛の断片 Fragmentos de amor furtivo』(1998)が原作。

監督はフェルナンド・バジェホという。この名前を見て慌ててDVDを入手した。コロンビア作家の名前と同じだからである。

コロンビア人作家のフェルナンド・バジェホは昔映画を撮ったことがあるが、最近は全く撮っていない。その彼が再び映画に復帰したのか?それはありえないだろう、それに犬猿の仲のファシオリンセの本を?

まさかと思って調べると、このフェルナンド・バジェホはウルグアイ人だった。

日本語の字幕も付いているが、劇場では公開されたのだろうか。

ファシオリンセ的な細やかな描写を残すことに成功していると思った。ボゴタの曇りがちな天気が物語の内容にマッチしているし、地域や時代の文脈を知らないでも全く構わない。

トレイラーはこちら

映画のワンシーンでは、ファシオリンセ自身が登場しているように見えた。

2017年8月6日日曜日

ピニェーラのフランス語詩

ピニェーラはフランス語でも詩を書いた。

10篇が残っている。

そのうち5篇はMaria Maya Surduts(1937-2016)に捧げられたものだ。彼女はラトビア生まれの「フェミニズム活動家」で、63年のワシントン大行進に参加し、その後キューバに渡った。

合計8年間キューバに暮らして、カストロ政権を批判し、最後は国外追放を受けた。それが1971年。

ピニェーラとは友人で、その彼が不遇であるのを見たことも、革命の文化政策に疑問を持った一因らしい。国を去るとき、ピニェーラにレコードプレイヤーをプレゼントした。

フランス語の詩は60年代の終わりから70年代の初めに書かれている。ベトナムの詩をフランス語から翻訳していたと同じ時期かもしれない。

その10篇の詩を含む詩集は以下のもの。

Piñera, Virgilio, Una broma colosal, Ediciones Unión, La Habana, 1988.

2017年8月4日金曜日

キューバからロルカへ

本の整理で見つかったもの。

Arpa de troncos vivos: De Cuba a Federico(compilación y prólogo de César López), Editorial Letras Cubanas, La Habana, 1999.

ロルカ生誕100年を記念した一冊で、キューバの詩人がロルカをめぐって書いた詩やエッセイや小説の寄せ集め集。

冒頭にロルカの「キューバの黒人たちのソン」。そのあと、レサマやニコラス・ギジェン、リノ・ノバス・カルボ、カルペンティエル(『春の祭典』からロルカが出てくるシーン)、ミゲル・バルネーなど。

ピニェーラは、彼の最も初期の詩がロルカと関わるものとこじつけられて入っている。

2017年8月3日木曜日

パブロ・メディーナとピニェーラ

パブロ・メディーナは1948年、ハバナ生まれ。

1960年にニューヨークへ移住。1975年に最初の詩集を出した。英語作家である。

詩のほかに小説などもある。

翻訳では、ロルカの『ニューヨークの詩人』を英語にしている。

その彼の2015年の仕事がビルヒリオ・ピニェーラの詩の英訳である。

Piñera, Virgilio, translated by Pablo Medina, The Weight of the Island: Selected poems of Virgilio Piñera, Diálogos Books, Middletown, Delaware, 2014.



タイトルは1943年の「島の重み」から取られている。

「島の重み」の英訳はMark Weissも手がけていて、以下のものがウェブで入手可能。

Piñera, Virgilio, translated by Mark Weiss, La isla en peso/The Whole Island, Shearsman Books, 2010.

2017年8月2日水曜日

キューバ雑誌研究

キューバの文芸誌「カサ・デ・ラス・アメリカス」を集めはじめてもう何年もたつ。

ある程度はまとまって入手したけれど、全部というわけにはいかず、抜けているところがそれなりにあって古本屋で見つけては注文している。

これまで入手したものを無駄にしないためには、書店のカタログに全巻揃いが出ていても諦めなくてはならない。

もちろん現在も刊行中なので、全巻揃いというのはあり得ないのだが、最近のものはすでにデジタル化が進み、カサ・デ・ラス・アメリカスのサイトでもダウンロードできる。もちろん無料。

怖いのは、昔のものまでどんどんデジタル化されて、現物が不要になってしまう事態である。まあそうなったとしても仕方ないが。

最近は直に古本屋とやりとりして、探してもらうこともしばしば。それでもなかなか進まない。



写真は最近届いたもので、46号、53号、86号、245号の4冊だが、その中に表紙が87号、中身は86号というのがある。書店のメモが入っていて、「印刷のミスで表紙には87号とあるけれども、中を開けば、あなたが注文した86号であることがわかる」というようなことが書かれていた。

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雑誌研究といえば、来る8月22日から24日に、こんなイベントがあって、訳あって関わっている。アフリカやカリブや黒人文化に関心のある方、ぜひどうぞ。
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デジタル版も印刷してみたことがあるが、現物を手にしてしまうと、どうしてもそちらの方に強く惹かれる。装丁にしても、表紙にしても。

雑誌「カサ」の表紙は長らく、ウンベルト・ペーニャ(Umberto Peña, 1937〜)が担当してきた。写真に見えているうち右の3冊は彼の作だ。

まだまだ先は長い。