2018年8月31日金曜日

ベルリンのアルゼンチン小説

ホセ・ルイス・ピッシさんの小説には「ベルリンのアルゼンチン小説」という副題がついている。

José Luis Pizzi, Leidis, Ij jabe Junga: Una novela argentina en Berlín, Abrazos, Córdoba, 2018.

すでに第二版。



彼はかつてアルゼンチンで弁護士業を営んでいた。特にセクシャル・マイノリティーの人権問題では大きな仕事を成し遂げた。

その後21世紀に入り、まずマドリードへ、そして今はベルリンに住んでいる。

ベルリンでも弁護士業を続けていたこともあったようだが、今は文化イベントの企画や執筆に専念している。

多和田葉子さんの「うろこもち」のスペイン語版『Escamígera』の出版イベントにも関わっていらっしゃる。

彼の小説のタイトルは日本語に訳せば、『レイディス、お腹が空いたよ』である。

「Ij jabe Junga」をスペイン語圏の人がそのまま音読すれば、「イッヒ・ハベ・フンガ」となって、それはドイツ語で「お腹が空いた」という意味になるらしいのだが、それでいいでしょうか?

この本が彼の3作目で、現在次の作品を準備中である。

[ ベルリンのスペイン語文学についてはまだ続く。]

2018年8月30日木曜日

ベルリンのラテンアメリカ文学

マリア・ネグロニ(María Negroni、1951-)はアルゼンチン出身の詩人・小説家・翻訳家。

彼女の作品に『ベルリンの間奏曲』というのがある。

María Negroni, Interludio en Berlín, Pre-Textos, Valencia, 2014.


表紙の門はベルリンのブランデンブルク門。

(おそらく)ベルリンの夏から秋にかけての滞在を元にして書かれた10行くらいの断章。全部で40数篇。

続いて、コスタリカの詩人ルイス・チャベス(Luis Chaves, 1969-)。

Luis Chaves, Vamos a tocar el agua, los tres editores, Santo Domingo de Heredia,  2017.


著者は2015年1月から1年間、ドイツ学術交流会(DAAD)の奨学金でベルリンに滞在した。

妻、9歳と4歳の娘を連れてカリブから真冬のヨーロッパへ。

この本はその時の滞在記。アラン・パウルスの書評はこちら

2018年8月19日日曜日

アルゼンチンから届いた本

アルゼンチンの友人から本が届いた。

Laura Ramos, Infernales: La hermandad Brontë: Charlotte, Emily, Anne y Branwell Taurus, Buenos Aires, 2018.



ブロンテ姉妹、いや、ブランウェルを含めているのでブロンテ「きょうだい」と、彼女ら彼らが残した作品についての本。

ブロンテ物語にして事典。家系図、地図、文献リストなどもついた研究書である。

作者のラウラ・ラモスは何年か前、日本の大学、府中にある外国語大学で一度だけ授業をしたことがある。

男女が「自然に」分かれて座っていること、寝ている学生がいたことに驚きながらも楽しそうだった。

そのとき話したのは、サルミエントの発案で19世紀のアルゼンチンにボストンからやって来た女性の先生たち(日本の御雇外国人と少し似ている)の「冒険譚」だった。

当時ラウラがアルゼンチンの日刊紙に連載していた内容をもとにしたもので、もともと授業でもその連載を読んでいた。

ホーレス・マン、ピーボディ姉妹、ホーソーン、ソロー、超絶主義者、『若草物語』……

サルミエントがアルゼンチンに持ち込もうとした教育理念の背景にはこんな固有名詞が並んでいる。

そちらの連載が本になったのかどうかはわからないが、ほぼ同時代のイギリスの一家の方は400ページを超える大著となった。

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最近、訳あってフォークランド紛争(マルビーナス戦争)について調べている。日本語では防衛研究所というところが出しているこんな資料が読める。

このような戦史研究が行われている背景は序文を読むとよくわかって、要するに日本も領土問題があるからだ。

この資料、軍事関係の固有名詞を日本語にするときには参考になるが、英語文献に依拠して書かれ、三浦瑠麗氏の本は参照するけれど、スペイン語の参照文献はゼロ。

2018年8月18日土曜日

キューバ文学、新しいものと古いもの

古い方から。

Lino Novás Calvo, El negrero, Tusquets, Barcelona, 2011.


フォークナーのスペイン語翻訳者としても知られるリノ・ノバス・カルボ(1903-1983)の小説。

奴隷商人ペドロ・ブランコ・フェルナンデス・デ・トラバの人生を小説にしたもの。初版は1933年。このトゥスケッツ版はアビリオ・エステベスの序文付き。

巻末に作者による参考資料と年譜が付いている。年譜は黒人奴隷制度に関するもので、1886年がキューバの奴隷制度廃止年。ブラジルが廃止したのは1888年。

続いて新しい方。

Julián Martínez Gómez, El amante alemán, Dos bigotes, 2017.


作者は1985年ハバナ生まれで、これが最初の長篇小説。

冷戦時代と21世紀とをつなぐキューバ人の恋愛。

ハバナやベルリンやマドリードでの物語が断章として並べられる。ドイツ語の歌や古いベルリンの写真もまた断章の一部である。

2018年8月13日月曜日

テスティモニオ論(John Beverly)

テスティモニオを論じた本。

原著は英語で、そのスペイン語版も届いたが、内容は微妙に違う。

まずは英語版。

John Beverley, Testimonio: On the Politics of Truth, University of Minnesota Press, Minneapolis-London, 2004. 


目次は以下のとおり
  • Introduction : testimony and empire
  • The margin at the center : on testimonio
  • "Through all things modern" : second thoughts on testimonio
  • The real thing
  • What happens when the subaltern speaks : Rigoberta Menchú, multiculturalism, and the presumption of equal worth.

以下が、この本のスペイン語版。

John Beverley, Testimonio: sobre la política de la verdad, traducción de Irene Fenoglio y Rodrigo Mier, Bonilla Artigas, México D.F., 2010.



目次は以下のとおり。

 ・El margen al centro: sobre el testimonio(1989)
 ・"Por medio de cosas modernas": Reconsideraciones sobre el testimonio(1991)
 ・Lo Real(The Real Thing)(1996)
 ・"¿Qué pasa cuando habla el subalterno?: Rigoberta Menchú, el multiculturalismo y la "presúnción de valor igual"(2001)
 ・Testimonio e imperio(2004)
 ・La crítica del testimonio y el giro neoconservador(sobre un libro de Beatriz Sarlo)(2009)


 順序が入れ替わっている。タイトルからして興味をそそられる「テスティモニオと帝国」が英語版では序論として置かれていたが、スペイン語版では五番目の章。

 それから、最後の論文はスペイン語版の方にしかない。

 というわけで、「テスティモニオと帝国」から読むのがいいかもしれない。

2018年8月12日日曜日

グラフィック・ノベルで読むボラーニョ

ボラーニョの『はるかな星』のグラフィック・ノベル版が届いた。

Estrella distante de Roberto Bolaño, Adaptación de Javier Fernández y Fanny Marín, Random Comics, Barcelona, 2018.



フェルナンデスさんとマリンさんの役割分担については、ボラーニョ作品におけるアメリカ文学の影響を研究して博士号をとったフェルナンデスさんがセリフというか脚本部分を担当し、マリンさんが作画担当。

トレイラー(?)はこちら

2018年8月11日土曜日

キューバとアンゴラ

キューバのアンゴラ派兵についての日本語文献では

矢内原勝・小田英郎編『アフリカ・ラテンアメリカ関係の史的展開』平凡社、1989年所収の青木一能「アンゴラとキューバ」(同書、223–252ページ)がある。


それからキューバ人ジャーナリストによる以下の本がある。アンゴラの戦争に加担した白人雇い兵を取材したもの。

ラウル・バルデス・ ビボ『アンゴラの白い雇い兵』(後藤政子訳)、恒文社、1977年。


(この項、続く)