2018年10月28日日曜日

ロラ・アリアス『記憶の地雷原』

京都国際舞台芸術祭2018にアルゼンチンの劇作家ロラ・アリアスの作品が来た。

今回の作品は『Minefieldーー記憶の地雷原』という。
 
5年前の『憂鬱とデモ』(やはり京都にきた)という作品は、自身と母親との関係を語るある意味オートフィクションで、自身も出演し、歌も歌い、映像を通じて母親も登場させていた。

そして今回は、フォークランド紛争/マルビーナス戦争を題材にとった。

実際の戦争帰還兵6名が出演するという衝撃的な作品である。

アルゼンチンから3名、そしてイギリスから3名、1982年に実際に島に赴いた人たちが、自らの経験を語りながら、ドラマは進む。

当時の音声、映像、雑誌などを通じて示される戦争の実態と、その時にいた彼らの立場、そしてそれを振り返る今の「彼ら」。

当事者本人が出演するというのでは、イーストウッドの映画『15時17分、パリ行き』と同じだが、30年以上を経て、当時の構図では敵と味方を対面させていることに、驚きを感じざるを得なかった。

5年前と今回の作品で、字幕を日本語にする機会に恵まれ、今回は、カンパニーの人たちと、たとえ短時間でも間近で過ごすことができた。

製作の間、ロラと出演者たちでは激しいやりとりがあったらしい。それはそうだろう。出来上がった作品は出演した彼らにとって、一種のセラピーとしても機能してはいる。

でも笑いもある。今回は初日に見たが、適度に観客から笑いが出ていて、それが良かったように思う。

これまで世界各国で100回以上上演し、日本の後は、再びヨーロッパ、来年はアメリカにも行くそうだ。

出演者はプロの役者ではないから、それぞれ仕事がある。それをほっぽり出して世界を回っている。

ロラ・アリアスにはぜひこの作品のプロダクション・ノートを書いて欲しいなあ。


2018年10月13日土曜日

近況

あまりにもやることがたくさんありすぎて、メモを残す間もなく時間が過ぎてしまう。

この前、星野智幸さんが谷崎賞の授賞式と祝賀会に声をかけてくださったので、行ってきた。

四半世紀前に一緒にメキシコで一時期を過ごした友人が勢ぞろいして、こういうことを言っていいかわからないけれども、ちょっとした同窓会のようでもある。

谷崎賞といえば、大江健三郎の『万延元年のフットボール』が受賞作だが、確かこの本、メキシコで星野さんら、当時メキシコにいた何人かと共有して読んだような気がする。

受賞の言葉は「中央公論」2018年11月号に、選評とともに載っているが、当日はそれをベースに喫緊の話題について話していた。

詳しくは朝日新聞のこの記事にあるのだが、この中にある、文学における言葉の毒と薬の話を聞いていて、おや、これはそういえば、1年半前に東京外大で講演をしてもらった時に言っていた話だなと思い出した。

講演会の時にとったノートを探し出してみると、その時星野さんは、ドストエフスキーの『罪と罰』などに触れながら、言葉には毒があることを意識しながら薬に変えていくのだ、文学は言葉の暴力性を薬に変えるのだ、と言っている。

今後もこの毒と薬の話は星野さんの文学観の中心になっていくと思う。

星野さん、谷崎賞、おめでとう!