2018年7月26日木曜日

[7月27日追記]ウォーカー・エヴァンス/アンドレイ・コドレスクのキューバと、もう二つ

ウォーカー・エヴァンスのキューバ写真集。

Walker Evans, Cuba, The J. Paul Getty Museum, London, 2011.

写真は1930年代、ラングストン・ヒューズやガルシア・ロルカが見たキューバと同じ時期だ。


この写真集にはエッセイが付いていて、書き手はアンドレイ・コドレスク。注意を払っていなかったのだが、この作家はルーマニア出身で、アメリカ合衆国在住の英語でも書く人である。

このことに気づいたのは、以下の本で。

Cuba in mind : An anthology, edited and with an introducion by Maria Finn Dominguez, Vintage Departures, 2004.


ここにはヘミングウェイとかオスカー・イフェロスとかアレン・ギンズバーグとか、まあ外国人によるキューバ紀行の抜粋がたくさん入っていて、そこにコドレスクの名前があった。抜粋なので、全体を読んでみたいと思って入手したのが以下の本。2015年の本だが、コドレスクが訪れたのは1998年で初版は1999年に出ている。



Andrei Codrescu, Ay, Cuba! : A socio-erotic journey, Open Road Media, 2015.

-----------------------

スペインの映画『悲しみに、こんにちは』を見た。トレイラーはこちら

(以下、結末に触れています)



最後の最後に献辞が出てくる。予備知識ゼロで見たので、ここでハッとした。

日本で今公開されているのは、最後に「母、ネウスへ」とある。

それを見ると、なるほど監督自身の体験に基づいていることが伝わる意味のある献辞だ。だからハッとした。

しかし、エルビラ・リンドが「エル・パイース」で書いている文章によれば、彼女がみたヴァージョンでは、献辞は「両親へ」となっている。

これはこれでリンドが指摘するように、ダブルミーニングで悪くない。

どちらにしても、観終わったばかりの映像を最初から蘇らせたくなるような「呼びかけ」に成功している献辞であるなあ。

------------------------
[7月27日の追記]

日本語のタイトルは映画の最後の場面を受けていて、まあそれはそれでいいとしても、この場面で表現されているのは「悲しみ」というような、妙に落ち着きのある詩的な響きを持った感情とは違う。

ここで少女フリダは「泣く(cry, llanto)」のだ。発作のように、コントロールできない感情の暴発だ。映画の冒頭にあった「なぜ泣かないの?」というセリフに対応する。

原題『1993 夏』を踏まえると、監督は少女の号泣を特定の時代の集合的な記憶、つまりポスト・フランコ時代のスペインの記憶として提出している。

------------------------
いつの間にか、amazonに書影が出ていました。

2018年7月23日月曜日

文芸誌『ディアスポラ(ス)』と、もう一つ

キューバ人が世紀をまたいで出していた文芸誌『ディアスポラ(ス)』のファクシミリ版。

Revista Diáspora(s): Edición Facsímil(1997-2002), Literatura cubana, Jorge Cabezas Miranda(Ed.), Red ediciones S.L. 2013.

1997年から2002年まで、合計8号が出た文芸誌。200部くらいの少部数の発行だったようだ。このような、非公式独立系の文芸誌があの時代に出ていたとは。

書き手は1959年以降が中心で、アントニオ・ホセ・ポンテやホセ・マヌエル・プリエトも書いている。

その上、リカルド・ピグリアのゴンブローヴィッチ論が入っていたり(2001年3月、6号)。

このファクシミリ版は全体が700ページ近いが、冒頭の170ページは編者の序文、関係者の論文、書簡、エッセイ、証言、インタビューなどで占められている。

1995年の秋、島内外のキューバ人を招いた「文学会議」が企画された。会議の開催場所はマドリードだった。

1年前の1994年、同じマドリードですでに第1回目の文学会議が催されていた。会議の名称は「La isla entera(島全体)」。しかし1995年に予定されていた第2回目は延期され、そして中止になった。

この経緯をめぐる当事者(アベル・プリエト、当時UNEAC代表、その後文化大臣)の公開書簡、それに対する作家の応答などが載っている。




-------------------
公開されたばかりの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・アディオス』を見てきた。トレイラーはこちら

(以下は内容に触れています)

第1作のメイキングっぽいところはあるけれど、キューバ音楽アーカイブ・フィルムとしても見ておくべき映画。パート1に対する応答映画にもなっている。

パート1が冷戦終結後のつかの間の平和時に撮られたとすれば、このパート2もまた、キューバ・米国国交正常化からトランプ就任前までの、つかの間の平和が大きな主題になっている。それを演出するのが黒人大統領オバマである。オバマがキューバ人を「ブラザー」と呼ぶ背景にはブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブがあったのだ。

冒頭(フィデルの死、2016秋)からクライマックス(オバマのキューバ訪問、2016春。オバマによるホワイトハウスへの招待、2015秋)までの時間の流れの矛盾がこの映画の面白いところだ。

実はこのクライマックスはすでにYoutubeで公開されている。公開元はThe Obama White House。

歴史というものは、時間において後退しながら前進する。映像も小説もそれを可能にする。

「パート1」の成功によって「パート2」が生まれたものの元祖は『ドン・キホーテ』だが、本作にも『ドン・キホーテ、パート2』のもつ物悲しさがある。タイトルにもある通りだ。

と言ってもキューバ音楽は永遠に終わらないはずで、エンドロールに終わりがこなければいいと思った。

2018年7月16日月曜日

文芸誌『トロピック』と、もう一つ

長年話に聞くばかりで、現物を遠目に眺めているだけだったマルチニークの文芸誌『トロピック』が届いた。

TROPIQUES(1941-1945, Collection complète), jeanmichelplace, Paris, 1978.



この本の表紙装画はウィフレド・ラムによるもの。雑誌でラムが言及されるのは1945年12号のピエール・マビーユの「ジャングル論」である。同じ号にはカルペンティエルの文章も載っている。

ちょうどその頃、キューバでも文芸誌『オリーへネス』でラムの装画が使われる。

---------------
北条裕子「美しい顔」(『群像』2018年6月号)を読んだ。

この作品をめぐって起きていることを考えれば考えるほど、スペイン語圏、ラテンアメリカにおける文学ジャンル、テスティモニオ[Testimonio(証言・証言文学)]についての理解が日本でも共有され、深まることが必要だと感じる。

新人賞への応募作ということで、審査員は作者の属性についてはどれほどの情報が事前にわかっていたのだろうか?選評でそのことに触れているのは野崎歓氏のみで、知らされていないようだ。
 
ただ、どのように読むにせよ、この作者と作品をアイソレーションさせてはいけないと思う。

2018年7月7日土曜日

アメリカ大陸におけるアフリカン・プレゼンス/プレザンス・アフリケーヌ

アメリカ大陸のアフリカ文化についての文献。

African presence in the Americas(general editor, Carlos Moore ; editors, Tanya R. Saunders, Shawna Moore), Africa World Press, Inc., 1995.



1987年2月26日から28日、マイアミで、第1回アメリカ大陸におけるアフリカン・コミュニティ会議が催された。この本は会議のプロシーディング。

会議のテーマは「アメリカ大陸におけるネグリチュード、エスニシティ、アフロ系文化」。

主催者はカルロス・ムーア(フロリダ国際大学)で、会議はエメ・セゼールに捧げられている。

Part Iは「Negritude, or the essence of black awareness」というタイトル。

以下のような文章が入っている。

   Aimé Césaire, "What is negritude to me"
   Léopold Sédar Senghor, "Negritude and the civilization of the Universal"

  その他の書き手はRichard Long, Rex Nettelford, J. Edward Grenne。

Part IIは「Racism in the Américas: Case studies」と題されて、ブラジル、ペルー、コスタ・リカ、エクアドル、パナマ、ニカラグア、キューバ、ホンジュラス、西インド諸島(フランス語圏)の事情。

ここでキューバを担当しているのがカルロス・ムーア。

彼の文章のタイトルは「Afro-Cubans and the communist revolution」。199-239ページ。

Part IIIは「African women in the Americas and the process of change」

書いているのはMaya Angelou, Mari Evans, Lelia Gonzalez, Betty Parker Smith, Adrienne Shadd。

Part IVは「The African world and the challenges of the 21st century」。

ここに、コロンビアのアフロ作家Manuel Zapata Olivella(マヌエル・サパタ・オリベーリャ)の「The Role of Black Intellectuals in Forging black unity」。

2018年7月4日水曜日

ハバナのアール・デコ

ハバナのアール・デコについての本。

Aljejandro G. Alonso, Pedro Contreras, Martino Fagiuoli, Havana Deco, W.W. Norton & Company, New York-London, 2007.



 表紙の写真は「カサ・デ・ラス・アメリカス」の本部。

本のカバーを守るためにかけられているセロファンを外さずにスキャンしたので靄がかかっているみたい。