2022年5月29日日曜日

近況 5月終わり/キューバからの手紙

ゴールデンウィークに社会主義リアリズム文学研究会があって、その2週間後には日本中東学会の年次大会があった。

社会主義リアリズム文学研究会はすでに5回目になるのだが、第1回はコロナ前なので対面、第2回、第3回はオンライン、第4回、第5回はハイブリッド開催となっている。今回はロシア軍によるウクライナ侵攻後の開催ということでもあった。

中東学会は、邦訳が何冊もあるアミン・マアルーフの話が聞けるということで申し込んだ。二日目の発表もいくつか聞かせてもらい、色々なヒントを得た。

日本中東学会と日本ラテンアメリカ学会は設立年も近く(前者は1985年、後者は1981年)、地域研究の学会ということではなんとなく似たもの同士だと思っている。その中でそれぞれの地域の文学研究者がどういう発表をするのか興味深い。発表時間は中東学会は30分、質疑が10分だった。ラテンアメリカ学会は討論者がついて、20分か25分しかなかったような。

そういえばかつては日本独文学会のシンポジウムを聴講したり、ロシア文学会の一部のセッションも聞かせてもらったりしたことも思い出した。

6月頭は日本ラテンアメリカ学会の研究大会が同志社大学で開かれる。

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キューバ系ユダヤ人作家のRuth Beharさんのことが最近気になってきて、ぱらぱらめくっている。

まずお名前の読み方だが、彼女は現在米国在住で、Youtubeを見る限り、紹介される時には、ルース・べハール(あるいはべハー)と呼ばれている。スペイン語っぽさを残せば、ルース・べハールかな。

1956年キューバ生まれで、その後ニューヨークで育ち、スペインやメキシコにも住んだことがあるという。人類学者でもあり作家でもある。

Wikipediaによれば、セファルディ系とアシュケナージ系双方の流れを引いているという。

多くの著作があるのだが、手元にあるのは以下の2冊と思われる。

Ruth Behar, Cartas de Cuba, Penguin Random House, 2021.

オリジナルは英語(Letters from Cuba)で、以下はスペイン語翻訳版である。翻訳者はAbel Berrizさん。




この本には著者の自伝的な要素が書かれているのだが、それによれば1938年にポーランドからキューバに向けて船で出ている。

キューバが大勢のユダヤ人を載せてハンブルクを出航した船の入港を拒み、その後その船は再びヨーロッパに戻り、結局乗船していたユダヤ人は強制収容所に送られたという話があるが、この本で書かれているのは、その直前の話ということになる。

その頃キューバに渡る可能性があった人物に、ヴァルター・ベンヤミンがいる。ニューヨークにいるアドルノが、ハバナ大学の招聘教授のポストはどうかと持ちかけていた。このことは、ラファエル・ロハスがかなり前に書いている。

もう一冊見つかった本はこちら。

Ruth Behar(ed.), Bridges to Cuba/Puentes a Cuba, University of Michigan Press, 2015(初版1995).



キューバの作家やアーティストが「ホームランド」について書いた文章を、これでもかというぐらいに集めた本。400ページ以上。

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5月終わりの緑と青空と紫陽花。毎年のことですが。





2022年5月3日火曜日

5月3日 近況『ロシア文学からの旅:交錯する人と言葉』ミネルヴァ書房

近々、以下の本が刊行されます。

中村唯史、坂庭淳史、小椋彩編著『ロシア文学からの旅:交錯する人と言葉』ミネルヴァ書房、2022




この本には「世界の中のロシア文学」と題して、世界の文学におけるロシア文学との関係を紹介するパートがあり、そこに「ロシア文学とラテンアメリカ文学」の項目を書きました。革命後のキューバにおけるロシア・ソ連文学との関係です。アナ・リディア・ベガ・セローバの短篇(「ロシア料理 La comida rusa」)を引用しています。

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英語でもスペイン語でも書く、コロンビア出身でNY在住の作家ハイメ・マンリケの名前が以下の本に出てくる。

レベッカ・L・ウォルコウィッツ『生まれつき翻訳-世界文学時代の現代小説』(佐藤元状・吉田恭子[監訳] 田尻芳樹・秦邦生[訳])、松籟社、2021年

「小説家で詩人のハイメ・マンリケはコロンビア生まれだが、一九八〇年以来合衆国在住で、小説は英語、詩はスペイン語で出版している。彼に言わせれば英語は自分の「公用言語」である。社会との「会話」として、「会話」について執筆するのに楽な言語であるのが英語であるのに対して、スペイン語は彼にとって「親密な」言語なのである。」(23ページ)

ハイメ・マンリケには日本語での翻訳書がある。

ハイメ・マンリケ『優男たち-アレナス、ロルカ、プイグ、そして私』(太田晋訳)青土社、2006年

最も有名な彼の小説は以下の『マンハッタンに浮かぶラテンの月』。

Jaime Manrique, Latin Moon in Manhattan, The University of Wisconsin Press, 1992




目の疲れと肩こりがはじまってしまうので、根を詰めてはいけないのだが、このところの雨と晴れの繰り返しも結構辛い。気圧の影響かもしれない。