2016年2月29日月曜日

リカルド・ピグリアとフアン・ホセ・サエール

メキシコで見つけた本その2。

アルゼンチンの作家リカルド・ピグリアとフアン・ホセ・サエールの対談集。

Piglia, Ricardo, Por un relato futuro: Conversaciones con Junan José Saer, Anagrama, 2015, Barcelona.

表紙の絵にはシュル・ソラール(Xul Solar, 1887-1963、アルゼンチン)が使われている。

彼の絵はブエノスアイレスの美術館MALBAなどで見られるが、シュル・ソラール美術館のほうがじっくり見ることができる。

ピグリアとサエール二人の作家の作品もいよいよ日本語で読めるようになった。水声社から出ている『人工呼吸』であり、『孤児』である。

そこで、二人のゴンブローヴィッチ論もまた日本語になっているので紹介しておこう。

ピグリアのゴンブローヴィッチ論「アルゼンチン小説は存在するのか?」は以下の本に入っている。

ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ『トランス=アトランティック』(西成彦訳)、国書刊行会、2004

そしてサエールの「外からの眼ーーアルゼンチンのゴンブローヴィッチ」は東京大学現代文芸論研究室が毎年発行している論集「れにくさ」第4号にある。こちらから読める。

2016年2月21日日曜日

追悼 ロサリオ・フェレ(1938 .9.28-2016.2.18)[3月26日追記]

津島佑子、ウンベルト・エーコ、ハーパー・リーの訃報がとどくなか、うっかり見落としそうになってしまった。

プエルト・リコの作家ロサリオ・フェレ Rosario Ferréが2016年2月18日、亡くなった。
ここ数年闘病生活を送っていたとのことだ。享年77。

プエルト・リコの新聞「El nuevo día」紙に訃報が載っている。同じ新聞のこちらにも追悼コラム。

「El Vocero」紙にはこういうコラム訃報記事

メキシコの作家エレナ・ポニアトウスカの追悼文がメキシコの新聞「La Jornada」紙に載っている。こちらから。

プエルト・リコのウェブ雑誌「80grados」の追悼コラムはこちら。 生前のインタビューはこちら

ニューヨークタイムズ紙の記事はこちら

3月5日午後3時、プエルト・リコのサン・フアンにある美術館Museo de las Américasで追悼式が営まれる。アナ・リディア・ベガやマガリ・ガルシア・ラミスなど7人のプエルト・リコ女性作家がフェレの作品を読んだり追悼の言葉を述べる(この情報の出典はこちら。)

コスタ・リカの新聞「La Nación」紙の記事

ロサリオ・フェレの作品の邦訳には以下のものがある。

『呪われた愛』松本楚子訳、現代企画室、2004年


実はこの作品をめぐって論文を書いたばかりで、もうじき日の目を見るはず。

[3月9日追記]
手元にあるロサリオの本は以下の3冊。

Maldito amor y otros cuentos, Vintage Español, New York, 1998.
 ※上記邦訳本『呪われた愛』の原典

Sweet Diamond Dust and other stories, A Plume Book, 1986.
 ※この本はMaldito amor の英語版でスペイン語からの翻訳もロサリオ自らが手がけた。

Papeles de Pandora, Vintage Español, New York, 2000.
※この本は短篇集で、全23篇所収。一部は1976年にメキシコのホアキン・モルティス社から刊行されている。


[3月26日追記]
ロサリオ・フェレの『呪われた愛』をめぐって論文を書いたものが刊行された。

久野量一「プエルト・リコ、問い直される「正史」――ロサリオ・フェレとマヌエル・ラモス・オテロの作品から」、『立命館言語文化研究』、27巻2・3合併号、2016年2月、pp.177-187.

2016年2月17日水曜日

ロシア語からスペイン語への翻訳

メキシコで見つけた『Éxodo エクソダス』という本。ある本屋にロシア作家コーナーのようなものがあって、そこに並んでいた。

DJ Stalingradというロシア人作家が書いたもの。本名はPiotr Siláievといい、1985年モスクワ生まれの作家、ジャーナリスト、活動家とのこと。

版元はautomática editorial。スペインのこの出版社はロシアや東欧の作家を翻訳出版しているようである。

この本をスペイン語に翻訳したのは、フェルナンド・オテロ・マシーアス Fernando Otero Macíasという人物。

この記事に、ロシア語からスペイン語への翻訳者として名高い何名かが挙げられていて、彼はこのうちのひとり。ニコライ・レスコフ『魅せられた旅人』のスペイン語翻訳者でもある。ちなみに日本語は木村彰一訳で岩波文庫。

オテロ氏はこのほか、ドストエフスキーの『虐げられた人びと』や『カラマーゾフの兄弟』の翻訳もやっている(『カラマーゾフ』はこれから触れるマルタ・レボン Marta Rebón他と共訳)。

そしてマルタ・レボンは、ワシーリー・グロスマンの『人生と運命』をスペイン語に翻訳している。この作品は比較的最近日本語に翻訳されて、日本翻訳文化賞を受賞している。斎藤紘一訳、みすず書房。日本語で全3巻。

マリア・ガルシア・バリス María García Barrisは、アンドレイ・ベールイの翻訳者。

(この項、続く)

2016年2月14日日曜日

メキシコ文学(2)エルメル・メンドサ

2016年2月、メキシコで見つけた本を紹介していこう。一冊目は『Besar al detective』。

著者はエルメル・メンドサ(Élmer Mendoza)。1949年、シナロア州クリアカン生まれ。

シナロア州は米国国境があるソノラ州の南にあって太平洋に面している。太平洋といっても、バハ・カリフォルニア半島の内側の太平洋である。

マサトランという、記憶では湘南海岸のような庶民的ビーチもこの州にある町だ。クリアカンは州都。

メンドサは麻薬もの、ノワール系作家としてよく知られている。

少し前のエントリー「麻薬密売」で「麻薬密売の文学(ナルコ・リテラトゥーラ Narcoliteratura, Literatura del narco)」というジャンルがあると書いた気がするが、メンドサはそのど真ん中にいるとも言える。

この前再逮捕されたシナロア・カルテルの麻薬王チャポ・グスマンもシナロア州の出身である。

Balas de Plata(Tusquets, 2008)が彼の出世作か。トゥスケッツ小説賞を2007年に受賞。"左利きの"メンディエタ刑事が登場する。

その彼が2015年11月に出したのが今回見つけた本。

Besar al detective, Literatura Random House, México D.F., 2015.

やはり刑事メンディエタが登場。

トゥスケッツ社にはこんなページが。

2016年2月7日日曜日

ラテンアメリカ文学と東欧[2月20日追記]

東欧文学のブックガイドが出た。

奥彩子/西成彦/沼野充義編『東欧の想像力:現代東欧文学ガイド』松籟社、 2016年1月

ここに「ラテンアメリカ文学と東欧」というタイトルで文章を書いている。

書いたあとになって、言及した作家について起きたことを補足しておこう。

①ゴンブローヴィッチ
 アルゼンチンで2014年8月に「ゴンブローヴィッチ会議」 が催され、それをきっかけにウェブページが作られて、とても充実した内容になっている(少なくともスペイン語関係者にとって)。

ゴンブローヴィッチ図書館のページでは、ゴンブローヴィに関する300以上のスペイン語の原稿が読める。

かつてはひとつひとつの文献を、図書館を通じてコピー入手していたことを思うとありがたい。

ただ、リンク切れが起きたりする可能性もあるので、重要なものは手元で保管するしかないだろう。

ビオイ=カサーレスはゴンブローヴィッチにまつわるエピソードを、ボルヘスの口を借りて書いている。

「いまから詩を読むぞ。5分以内に誰も別の詩を読まなければ、ぼくがブエノスアイレスでいちばんいい詩人ってことだからな。」とゴンブローヴィッチはボルヘスに言ったとか(『日記』1956年7月22日日曜日)。
 
②エドゥアルド・ハルフォン
 グアテマラ出身のこのユダヤ系作家は2014年3月に来日し、出席はできなかったが、いくつかイベントが催されている。

 来日を期に、『世界』2014年6月号、8月号には彼の文章やインタビューが翻訳掲載されている(飯島みどり氏の翻訳)。

 また『早稲田文学』2015年冬号にも短篇が掲載(松本健二氏の翻訳)。白水社から翻訳書が出るとのこと。

③マルセロ・ビルマヘル
 この作家の兄ルベンは、2015年12月にイスラエルで殺されてしまった。スペイン語のニュースはこちら

[追記 2月20日]
 この本は、松籟社のウェブページで見本が公開されていて、目次や内容の一部読むことができる。
 

2016年2月3日水曜日

中米の文学(1)

中米・カリブ(キューバを除く)の文学はラテンアメリカの文学のなかで、なかなか日が当たらない(という)。

こちらで、 作家と文学作品を挙げているので、ここにも紹介しておこう。はじめて見る作家と既知の作家と半々くらい。

セルヒオ・ラミレス(ニカラグア)
 Sergio Ramírez, Sara, Editorial Alfaguara (Nicaragua)  

マイラ・サントス・フェブレス(プエルト・リコ)
 Mayra Santos-Febres, La amante de Gardel, Editorial Planeta. (Puerto Rico)

エドゥアルド・ハルフォン(グアテマラ) 
 Eduardo Halfon, Signor Hoffman, Libros del asteroide. (Guatemala) 

ルイス・チャベス(コスタ・リカ)
 Luis Chaves, Salvapantallas, Seix Barral. (Costa Rica)  

マウリセ・エチェベリーア (グアテマラ) 
 Maurice Echeverría, Un rencor puro y perfecto, Alas de barrilete. (Guatemala

ハシンタ・エスクドス(エル・サルバドル)
  Jacinta Escudos, El asesino melancólico, Alfaguara (El Salvador)

リタ・インディアナ(ドミニカ共和国) 
 Rita Indiana, La mucama de OmicunléPeriférica. (República Dominicana) 

カルロス・ウィンター・メロ(パナマ)
 Carlos Oriel Winter Melo, Las impuras, Planeta. (Panamá) 

デニス・ペ・フンチャル(グアテマラ)
 Denise Phe-Funchal, Ana Sonríe, FyG Editores. (Guatemala) 

ダニエル・キロース(コスタ・リカ)
 Daniel Quirós, Mazunte, Editorial Costa Rica. (Costa Rica) 

セルヒオ・グティエレス・ネグロン(プエルト・リコ)
 Sergio Gutiérrez Negrón, Dicen los dormidos (Puerto Rico)  

ホセ・アディアック・モントーヤ(ニカラグア) 
 José Adiak Montoya, Un rojo aullido en el bosque, Anamá ediciones, (Nicaragua)

[この項、続く]