2015年1月27日火曜日

カリブをアートでたどる

プエルト・リコの画家にフランシスコ・オジェルという人がいる。パリとカリブを往復しながら印象派の時代を生きた画家である。

この人のいくつかの絵を見て以来、何か「面白そう」だと思っていた。スペイン語圏のカリブの画家といえばキューバのウィフレド・ラムしか参照していなかったが、オジェルは時代も19世紀で、米西戦争前のカリブを描いている。この画家の周辺を調べ始めていた。

そうしたら、その人の生涯と絵画をまとめた本が出た(出てしまった)。

Sullivan, Edward J., From San Juan to Paris and Back: Francisco Oller and Caribbean art in the era of Impressionism, Yale University Press, 2014.







見返しのところにオジェルの紹介文が載っているのでざっと訳してみる。

「フランシスコ・オジェル(1833-1917)はプエルト・リコ出身の画家で、大西洋の両側で評価されてきた。サン・フアンに生まれたオジェルは二十年以上をヨーロッパで過ごし、当時、大西洋を横断した画家のなかでは最も著名なひとりになった。オジェルは写実主義、印象派、自然主義の先駆的な運動に加わり、カミーユ・ピサロやギュスターヴ・クールベのような芸術家と相互に影響を与え合う関係を築いた。 これらの芸術潮流は彼に、新奇な写実・印象派的なアプローチを吹き込み、彼はプエルト・リコの画派に革命を起こすことになる。」

カミーユ・ピサロはプエルト・リコの隣の島、セント・トーマス島(デンマーク領)出身で、こちらはヨーロッパに渡ってからはカリブには戻らなかった。

このカリブ出身の二人がパリでどんな会話をしたのだろうか。

オジェルの描いた19世紀のサトウキビ農場とラムの描いた20世紀のサトウキビ農場のあいだには急激な変容がある。

芸術潮流の変容は社会の変容でもあり、文学テキストでも同じことが起きている。さしずめマヌエル・セノ・ガンディーア(プエルト・リコ)からビルヒリオ・ピニェーラ(キューバ)への変容だと考えていい。
 
もうひとつ、カリブをアートでたどるのに重要な本は以下のもの。

Caribbean art at the crossroads on the world, El Museo del Barrio, New York, 2012


ニューヨークで3つの美術館が共催したカリブ展の画集である。巻末にはカリブを題材にした文学テキストが引用されている。トーマス・モア、コロンブス、コード・ノワール(黒人法)、C.L.R.ジェームズ、スザンヌ・セゼール、エドウィージ・ダンティカなどの作品が切り取られている。


2015年1月20日火曜日

ラテンアメリカ知識人論についてのアンソロジー2冊


ラテンアメリカの知識人論について関心があって、文献だけは集めている。
そのなかで以下の二巻はアンソロジーとして、とてもいいものだと思っている。

Altamirano, Carlos(director), Myers, Jorge(editor del volumen), Historia de los intelectuales en América Latina: I. La ciudad letrada, de la conquista al modernismo, Madrid, Katz Editores, 2008(2013, reimpresión).

Altamirano, Carlos(director), Altamirano, Carlos(editor del volumen), Historia de los intelectuales en América Latina : II. Los avatares de la "ciudad letrada" en el siglo xx, Madrid, Katz Editores, 2010.  


第一巻が19世紀まで、第二巻が20世紀を中心にしている。600ページ(1巻)、800ページ(2巻)なので、全部を読むのは大変だが論文集なので気になるテーマで選んで読んでみたい。

ラテンアメリカの人文がらみの流れについては、クリオーリョ知識人の残した文章を読むことからはじまるが、原典から読んでいくのはなかなか大変である。そういうときに、比較的名の知られた知識人やその周辺を整理してくれる論文はとてもありがたい。この本はそれらをまとめたものだからとても役に立つ。ブラジルの知識人について論じた文章も入っている。

2015年1月18日日曜日

続いている本 Continuidad de los libros(Part 1)

アレナスのあとも本は続いている。


Carlos Fuentes, Machado de la Mancha, Fondo de Cultura Económica, 2001.

―カルロス・フェンテスがブラジルの作家マシャード・ジ・アシスについて行なった講演録。マシャード・ジ・アシスについては、スーザン・ソンタグが書いている文章も参考になる。


管啓次郎『ハワイ、蘭嶼 旅の手帖』左右社、2014。

―ハワイは関心があって、書きかけの論文もある。管啓次郎の本を読むとますます行きたくなる。


西成彦『バイリンガルな夢と憂鬱』人文書院、2014。

―V 章の「在日朝鮮人作家と『母語』問題――李 恢成を中心に」は冒頭から、日頃の生温い言語への考えを叩きのめしてくれる。


デイヴィッド・ハワース『パナマ地峡秘史――夢と残虐の四百年』(塩野崎宏訳)、リブロポート、1994。

―パナマ運河のことを調べていて見つけた本。表紙はパナマ運河を航行中のぶらじる丸の写真。


Antología de textos literarios, Editorial Universidad de Puerto Rico, 1994.

ーこのなかに収録されている一篇のエッセイが読みたかったが、届いてみて驚いた。とても役に立ちそうなアンソロジーだった。スペイン語圏の重要な試論(ensayo)、小説(narrativa)、詩がかなり網羅的におさめられている。


星野智幸『未来の記憶は蘭のなかで作られる』岩波書店、2014。

―いつも思うが、星野のタイトルはすばらしい。『最後の吐息』『目覚めよと人魚は歌う』『夜は終わらない』など。


D・H・ロレンス「メキシコの朝」(伊藤整訳)、『世界文学全集72』講談社、1975。

―巻末の年譜によると、ロレンスのメキシコ到着は1924年10月11日になっている。どれくらいメキシコにいたのかはわからない(別の資料を見たら違う年号になっているから、今となっては額面通りには受け取れないようだ)。メキシコシティでサマセット・モームに会っている。1925年に『翼ある蛇』を発表。「メキシコの朝」は紀行文で1927年に発表。そのとき彼は42歳で、『チャタレイ夫人の恋人』の執筆途中(28年に発表)。 それから2年後の1930年、ロレンスは45歳で亡くなっている。


芳川泰久『横断する文学』ミネルヴァ書房、2004。

ー多和田葉子論やアレナス論も面白いが、デュラス論に惹かれて。