キューバを舞台にした映画『イタカ島への帰還』(2014年、フランス・ベルギー)。
監督はフランス人のローラン・カンテ(『パリ20区、僕たちのクラス』)。彼は『セブン・デイズ・イン・ハバナ』(2012年)ですでにキューバを撮っている。
『セブン・デイズ…』は7人の監督が撮った7篇の短篇映画から成る。とはいえ、一応ストーリーにつながりはある。
『イタカ島への帰還』の脚本は、その『セブン・デイズ…』の7本のうち3本の脚本を書いたキューバ作家のレオナルド・パドゥーラ。
舞台はセントロ・ハバナのマンションの屋上。50代とおぼしきキューバ人5名が夕暮れ時に集まる。
16年振りに作家のアマデオが帰国したのが理由だ。
アマデオがなぜスペインへ去り、16年戻ってこなかったのか、友人たち4名は誰も知らない。その謎が映画の最後に明かされる。
5名は空白の16年を埋めようと夜通し語り合う。
画家のラファは才能はあるが、体制と折り合わず、一時は酒浸りになる。いまは観光客向けに価値のない絵を描いて売って生計を立てている。
眼科医のタニアはマイアミに亡命した息子たちからの送金で暮らしている。果たして息子たちの亡命を許したことは正解だったのか葛藤するうち、サンテリーアを信仰するようになる。
エディは「会社」を切り盛りして羽振りがいい。上等の上着を着て、サングラスはレイバン、この日のためにウィスキーを調達することができる。しかし会社は当局に目を付けられ、明日には逮捕されるかもしれない。
同窓会の場所を提供しているアルドはアンゴラ内戦に従軍した過去がある。しかし帰還しても生活は一向によくならず、現在は廃品を利用して電池を製造するしがない「技師」。妻は出て行き、一人息子は常に亡命を口にする。彼が母と住んでいるセントロ・ハバナはハバナのなかではスラム街然としたダウンタウン。それでも彼は未来を信じている。
アマデオは16年前までキューバでひとまず名は知られている作家だった。しかしスペインに渡ってからは書けなくなり、デパートの守衛などをして生計を立てていた。
この中年男女の5名が、革命を信じて夢のあった青春を振り返り、苦しみばかりの現在を語り、笑い、涙を流し、喧嘩をする。
オルタナティブ・メディアでの評価はあまり芳しくないようだ。たとえばこれ。これも手厳しい。後者で指摘されているが、この映画はペドロ・フアン・グティエレスの舞台(セントロ・ハバナ)に、パドゥーラの登場人物(嘆きが特徴)を載せた体裁の、やや御都合主義的な映画ではある。
この映画の下敷きになったのはパドゥーラの小説のエピソードだが、そのことはここでは措く。
パドゥーラは『セブン・デイズ・イン・ハバナ』に参加するローレン・カンテのために、このエピソードに基づいた脚本を書いた。しかし15分の短篇では収まらず、結局カンテは『セブン・デイズ…』では別の短篇を撮った。そしてパドゥーラが新たに脚本を書き直して完成されたのがこの映画『イタカ島への帰還』である。
パドゥーラによる映画のノベライズ版、カンテ監督の手記、撮影されなかった短篇映画の『イタカ島への帰還』の脚本などをまとめた本が以下のもの。
Padura, Leonardo y Laurent Cantet, Regreso a Ítaca, Tusquets Editores, Barcelona, 2016.
0 件のコメント:
コメントを投稿