ポール・オースターがポール・ベンジャミン名義で書いた推理小説『スクイズ・プレー』では、私立探偵のマックスが契約して車を停めている駐車場係にルイス・ラミレスがいて、彼は「出版されていることがわかっているあらゆる野球雑誌を読」み、3人の息子には「それぞれ異なるヒスパニック系の野球選手に因んだ名がつけられている」。そのうえ、マックスが9歳の息子リッチーを連れて駐車場に行ったとき、リッチーはそれまで恐竜に、昆虫に、そしてギリシャ神話に夢中だったが、今度は「ルイス・ラミレスと野球の話になった。ルイスはリッチーを詰所に招き入れると、野球に関する本と雑誌をリッチーに見せた。それはまさに深遠な数字と、曖昧な人格と、難解な戦略の神秘的な宇宙への招待のようなものだった。リッチーはそれでいっぺんに野球にはまった。ルイスはかくしてリッチーのウェルギリウスになった。この神々と半神半人と人の世界におけるガイドに。それ以降、私との外出はもはや駐車場でのルイスとの会議なしには完全なものではなくなった。リッチーは私が誕生日に買ってやった〈ベースボール・エンサイクロペディア〉の三分の二を暗記しており、どこへ行くにも野球カードのコレクションを持ち歩くようになった」(ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』田口俊樹訳、新潮文庫、88ページ、111ページ)。
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