柴崎友香『帰れない探偵』(講談社)は「帰れない探偵」が世界をさまよう連作短篇集。収録されている最後の「歌い続けよう」のワンシーン。空港の展望デッキで、探偵はたまたま話しかけられた人と会話をする。
「(前略)わたしが通っていた高校を【子どもが】受けたいって言ってます。何年か前に移転して、すっかりきれいな校舎になってて」
「それはいいですね」
「わたしが高校のときすごく楽しかったって話をしょっちゅうしたからかも」
わたしは頷いた。
彼女からは、わたしはどう見えているだろうか?
「ライブイベントに行くん?」
わたしは聞いた。彼女は懐かしい笑顔を見せた。
「チケットが当たらへんかったから、ここから同じ空気だけでもって。でもみんな考えることはいっしょやから、ここもあと二時間で閉鎖されて特別観覧席になるみたい。びっくりするような料金で」
2人の会話が東京弁から関西弁にスイッチするところが絶妙。探偵(わたし)は、それまでは「それはいいですね」と東京弁だったが、急に「ライブイベントに行くん?」と切り替える。そして相手も「チケットが当たらへんかったから」と答える。
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