藤本一勇は書いている。「現在、研究者の世界でも、翻訳の仕事は、業績ポイント上での評価が低い。外国の書物を翻訳するには、外国語ができるばかりでなく、その国の歴史や文化にも精通している必要があり、また専門書の翻訳ともなれば、原書を理解しうる最先端の知識が必要になる。(中略)/このように知的にも倫理的にも大きな能力が必要とされる翻訳を軽視するような評価基準の制度化や社会的イメージは、独創的な研究や成果を促進するというよりも、むしろ知の地盤低下を招来する可能性が高いだろう。/こうした翻訳に対する過剰な軽視は、それ自体が従来の過剰な重視に対する反動である。(中略)翻訳蔑視はオリジナル重視という近代イデオロギーの反映であると同時に、また近代以前から続く神学的・形而上学的発想の残滓でもある。翻訳がなぜ貶められるのか。簡単に言えば、翻訳はオリジナルとの関係で「二番煎じ」と考えられているからである」(藤本一勇『外国語学』岩波書店、53から54ページ)
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