マリアーナ・エンリケスの短篇集『ベッドで煙草を吸う危険 Los peligros de fumar en la cama』には1ダースの短篇が入っている。
その1番目、「El desentierro de la angelita」にはバキネーが出てくる。内容はタイトルにある通りで、幼い子どもの死体の掘り返し。
語り手には同居しているお祖母ちゃんがいる。そのお祖母ちゃん、中庭に自分の妹の死体が埋められているというのだ。語り手がたまたま雨の日に中庭を掘り返したら、骨が出てきて、どうやらそれが、その生後数ヶ月で亡くなった女の子、語り手から見たら大叔母の亡骸なのだそうだ。お祖母ちゃんは葬儀の時のことを振り返る。
「(…)[亡くなった子は]花で飾られたテーブルの上に載せられ、薔薇色の布切れに包まれて、大きな枕にもたせかけられていた。すぐに天に昇れるように、ダンボールで翼を作ってやり、口には赤い花びらをいっぱい満たし」た。「一晩中踊りが続き、歌がうたわれた」。(p.15)
こういう子どもの葬儀をプエルト・リコではバキネーという。バキネーは一説によれば、「Back in it」が訛ったものらしい。
プエルト・リコ出身で、パリでは同じカリブ出身のカミーユ・ピサロと知り合ったフランシスコ・オジェルという画家がいて、彼の代表作に『通夜 El Velorio』という大作があるのだが、この絵は幼な子の通夜を描いている。
このオジェルの絵を見たときはっとした。というのは、ガルシア=マルケスの処女作『落葉』で読んだシーンが蘇ったからだ。イサベルという女性が幼な子の通夜に行くシーンが出てきて、テーブルの上に横たえられた子どもが描写される。上に引用したのとだいたい同じだ。
幼な子の死はそもそも大変痛ましく、それゆえに葬儀はその悲しさを吹き飛ばすために、大勢の人を呼び、賑やかに催す。いやそれどころか大騒ぎしなければらならない。涙に暮れていると、幼な子の天使の翼が濡れてしまいますよ、と母親は諭される・・・
文章で読んで、そういうものだろうと納得していたが、その後オジェルの絵で、まさしくそれが再現されていることを発見したのだ。
こういう幼な子の通夜はカリブでは様々な芸術の題材になっていて、ウィリー・コロンには『El baquiné de angelitos negros』というアルバムがある。その表紙は以下のようなものだ。
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感染状況は悪化の一途で、先が見通せない。しばらくはこういう状態が続きそうだ。
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