2020年8月30日日曜日

キューバ映画『ランチェアドル(略奪者)』

続けてみたのは、セルヒオ・ヒラル監督『Rancheador』(1976年)。

ヒラル監督の奴隷三部作の二作目。

ランチェアドルとは略奪者・襲撃人という意味だが、キューバでは逃亡奴隷狩りを請け負う非道な個人事業主をさしている。彼らは農場主の依頼によって、製糖農場から逃亡した奴隷を追いかける。猟銃を持って馬に乗って犬を連れ、徒党を組んで山中を探し回る。

植民地時代、キューバの貧農(guajiro)は、法的には権利はないが、おそらく自分たちで開拓した土地を事実上の住まいとして(大抵は山の中)、コーヒー農園などを営んでいた。こうした貧農たちは、同じように山の中に逃げ込んでいる逃亡奴隷、また彼らの住う集落(パレンケ)と取引をしながら持ちつ持たれつの関係を築いていた。

ハイチ革命の後、ハイチの砂糖産業が低調になると、時代としては19世紀の前半から半ば以降のことだが、キューバは砂糖生産の拠点になっていく。

製糖農場主(豪農)は総督府と結託して、貧農から土地を収用して手広く事業を広げようとする。ランチェアドルはそのとき、農場主の最も有能な「手先」として、砂糖産業を支える自負も担っているかのような一種の傭兵である。

だから、ランチェアドルの任務は逃亡奴隷狩りに加え、貧農いじめをして土地から追い立てることもする。貧農に食糧を要求したり、暴力をふるい、農場に火を放つ。

この映画は、19世紀の作家シリーロ・ビジャベルデ(Cirilo Villaverde, 1812-1894)の『ランチェアドルの日記』を下敷きにしている。

フランシスコ・エステベスはそういう極悪非道なランチェアドルの一人。仲間と農場を回り、逃亡奴隷を探し出し、連行し、貧農をとことんいじめ抜いて恨みを買っている。彼の暴力によって被害を被った農民たちが訴えを起こすこともしばしばだが、エステベスは抵抗する貧農を殺させ、制御できない部下たちは女子をレイプしたりする。

このような非道は問題になり、手を下したエステベスの部下は死刑になる(処刑の方法は、あのgarrote。鉄の環による絞首刑。椅子に座り、首に鉄輪が嵌められる。後ろからその鉄輪を徐々に絞っていく方法)。

ランチェアドルも手先だが、その先にはまた手先がいて…とキリがない。植民地・奴隷制度によって生まれた暴力システムは、常に支える人が出てくる・・・

逃亡奴隷狩りをやっているうちに狂気に取り憑かれるエステベスの敵は、いまだ姿を見たことのない逃亡奴隷のリーダー、メルチョラ。彼女は製糖農場に火を放つ。

彼女を捕獲しようとして、エステベスは手に入れた黒人奴隷を手引きに山に入る。しかし山の中には彼がこれまで見たことのない世界があり、仲間割れをへて彼の狂気が極限に達したところで黒人奴隷との対決になる。

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