ウォルター・サレス監督の『アイム・スティル・ヒア』(2024)は冷戦期の反共軍事独裁による人権侵害を扱った実話もので、軍政とはいえ若者はドラッグを愉しみながらドライブ、BGMはブラジル音楽やブリットロックで、コダックの8㎜ビデオでなんでも撮って、映画はアントニオーニの『欲望』(1967)を観に行き、家族揃ってアイスクリーム・パーラーに出かけるような、ブラジル人の富裕層の暮らしは享楽的にも見えるくらいなのが普通なのだけれども、このまえ翻訳が出たネルソン・ロドリゲス『結婚式』(1966、旦敬介訳、国書刊行会)の雰囲気と似ていて、あれもリオデジャネイロだったが、ドライブ、ビデオカメラ、家族の絆という共通項がある、それでもこの『アイム・スティル・ヒア』は2024年の映画で、監督自身がこの映画で扱われる強制失踪者の家族と知り合いらしいが、左翼弾圧ということでは、このまえやっていた映画『ボサノヴァ 撃たれたピアニスト』(2023)やバルガス=リョサの『激動の時代』(2019)と、冷戦期ラテンアメリカの記憶を描き、サレスは1956年生まれ、フェルナンド・トルエバは1955年生まれで同世代、バルガス=リョサは1936年生まれで少し年齢は上だが、3人が21世紀という現在地にこだわりながら制作していることは一つの共通する特徴と言えるのではないか。
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