2022年7月17日日曜日

7月17日 

4月に刊行されたレオナルド・パドゥーラの『わが人生の小説』(水声社、2022)の書評が2本、期せずしてほぼ同時に出ました。

1本目は、ジャーナリストでラテンアメリカ関係の著作の多い伊高浩昭氏が『週刊金曜日』(2022年7月15日号)の書評欄「きんようぶんか」に掲載。

「壮大な擬装で現代キューバを批判」「史的謎解きにミステリー作家の本領発揮」と題して書いてくれました。

本小説の二重構造は、パドゥーラが仕組んだ現代キューバを批判するための劇中劇だという読みです。

「著者は大掛かりな擬装とメタファーを構築して、エレディアらが反逆した宗主国スペインの抑圧支配を、キューバ庶民の多くが今日、生活苦と自由の欠乏に苛まれている「革命体制」と二重写しにして鋭く描き出す」

極めて鋭い、現代キューバの状況をよく知る伊高氏ならではの指摘だと思います。




2本目はラテンアメリカ文学研究者で、『わが人生の小説』の主人公とも言えるホセ・マリア・エレディアに関する著作もある花方寿行氏によるもの。『図書新聞』(2022年7月23日、3552号)に載っています。

「脇役・敵役が垣間見せるキューバ社会のリアリティ」「マイナーで無名な「残った者たち」によるキューバ史」とあります。

これまた訳者には気づけなかった点を指摘してくれました。花方氏は、とかく広く知られている亡命作家ではなく、亡命せずにハバナで執筆しているパドゥーラが結果的にどこに重きを置いて書いてしまっているのかを指摘します。

それは「各時代の独裁的な政権下で亡命を選ばずに暮らしてきた人々の屈折」であり、「亡命しなかった者たち」「よりマイナーで無名な「残った者たち」の悲哀なのだと書いています。

この点にははっと驚かされました。




書評を書いてくださってお二人に感謝します。

0 件のコメント:

コメントを投稿