2022年7月12日火曜日

7月12日 自伝(フリアン・デル・カサル)

学期を通じて練習していたピアノ曲は結局できるようになっていないけれど、授業は最終週に入ってほっとひと息。

弾いていてつっかえていたところができるようになるときの、なにかわからない憑物が落ちたような、あれっできてる?というあの感じがもっとあるといいなあ。

しかし楽譜通りに演奏しようとする行為は翻訳と本当によく似ている。悩まずにすらっと訳せるところは、楽譜を見てスムーズに弾けるときの感覚と似ているし、どうにもうまく弾けないところは、こなれた訳文にならなくて進まないときと同じ。できるところを先に訳して一応先に進むが、結局うまくいかない数小節ができなければ、完成には至らない。

目の前に鍵盤なしに楽譜を見ながら指を動かすのがあるが、あれは原文を読みながら頭の中で日本語をタイプしていくイメージ翻訳みたいなもの。



引き続きフリアン・デル・カサル。前便は「はじめに Introducción」だったが、『Hojas al viento』の本格的な一番最初の詩はこの「自伝」。

この第一詩集が出たのが1890年で、この詩は1890年3月30日に書かれた。発表されたのは「La Habana Elegante」。詩人が27歳の時なのだが、彼が死ぬのはそれから約2年半後の1893年10月21日で、30歳になることもできなかった。



自伝 Autobiografía


Nací en Cuba. El sendero de la vida

firme  atravieso, con ligero paso, 

sin que encorve mi espalda vigorosa

la carga abrumadora de los años.


Al pasar por las verdes alamedas,

cogido tiernamente de la mano,

mientras cortaba las fragantes flores

o bebía la lumbre de los astros,

vi la Muerte, cual pérfido bandido,

abalanzarse rauda ante mi paso

y herir a mis amantes compañeros,

dejándome, en el mundo solitario.


¡Cuán difícil me fue marchar sin guía!

¡Cuántos escollos ante mí se alzaron!

¡Cuán ásperas hallé todas las cuestas!

Y ¡cuán lóbregos todos los espacios!

¡Cuántas veces la estrella matutina

alumbró, con fulgores argentados,

la huella ensangrentada que mi planta

iba dejando en los desiertos campos,

recorridos en noches tormentosas,

entre el fragor horrísono del rayo,

bajo las gotas frías de la lluvia

y a la luz funeral de los relámpagos!


全体68行のうちの最初の24行。あと10行で内容としてはひとくぎりになるのだが、まずはここまで。

最初の4行。キューバ生まれのぼくは、足取り軽く、人生の道を着実に進んでいる。歳月とともに背負う荷物はますます重くなるが、精力もあるので持ちこたえられる。

ここでちょっと難しいのは、firmeとligeroが矛盾するような形容詞になっているところ。paso firmeだと「足取りもしっかりと」という意味になる。

次の8行。ぼくは緑の並木路を手をつないで歩きながら(おそらく母と手をつないでということだろう)、匂い立つ花を摘んだり天体の輝きを味わったりしたものだ。そんな幸せな折、ぼくは死神に出会ったのだった。その死神は、信用ならない盗賊のようにぼくの道に急に立ちはだかって、大切な仲間を傷つける。こうしてぼくは世界に独り取り残される。

次の12行。導く人がいなければ、生きていくのは実に難しく、どれほどの障害が持ち上がったことか。厳しい坂が立ちはだかり、どこもかしこも暗い風景ばかりだ。ぼくはひと気のない野原を嵐の夜歩いた。ぞっとするような恐ろしい風のうなりに包まれ、冷たい雨滴に打たれ、葬送の稲光を浴びながら。そんなふうにしてぼくが残した血まみれの足跡を、明け方、銀白色の星がいったい何度照らしたことだろう。

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