この前、オペラ版『パサジェルカ』をみる機会があった。
のちの加害者と被害者の対面は、南米ではチリ独裁時代の拷問者と被害者ののちの対面劇を描いたアリエル・ドルフマン『死と乙女』でも見られる。
少し局面は違うが、被害者と傍観者を描いたものとしては、フリオ・コルタサルの「ふたつの切り抜き」という短篇だろうか。
『愛しのグレンダ』(野谷文昭訳、岩波書店)に入っているこの短篇では、軍政期に拉致されて殺害されたアイーダ・レオノラ・ブルステイン・ボナパルテの母親が書いた新聞への投書を読む二人のアルゼンチン人の話である。
二人の芸術家はパリにいて、この投書を読んでそわそわする。一人は彫刻家、もう一人は小説家。
「アウシュヴィッツじゃガス室に入れられる前に子供たちにはキャラメルが配られたからね」
こう彫刻家がいうように、殺されたアイーダはユダヤ人だった。
母親(ラウラ・ベアトリス)は軍を訴える。するとさらに迫害は強まり、「ユダ公のクズめがよくもアルゼンチン軍相手に殺人罪の訴訟なんて」と父親の方が連行される(その後死ぬ)。
この短篇では軍政期のアルゼンチンで多くのユダヤ人が迫害を受けたことがわかる。そして以下の本を見たら、コルタサルのこの短篇も入っていた。
IIan Stavans(ed.) The Scroll and the Cross: 1,000 years of Jewish-Hispanic Literature, Routledge, New York and London, 2003.
ロルカの「ユダヤ人の墓地」(『ニューヨークの詩人』所収)、ボルヘス「隠れた奇跡」のほか、ユダヤ系作家1000年の歴史。この本にはユダヤ・ディアスポラの年表が付いている。
イラン・スタヴァンスはこの本よりも前に、ラテンアメリカ・ユダヤ作家アンソロジーを出している。
Ilan Stavans(ed.), Tropical Synagogues: Jewish-Latin American Writers, Holmes & Meire, New York / London, 1994.
慌ててブログを読み直したら上記の本はすでにこちらで紹介済み。
さらに本を整理したら、ラテンアメリカ・ユダヤ作家のアンソロジーとして以下の本も出てきた。
Rita Gardiol(ed.), The Silver Candelabra & Other Stories: A Century of Jewish Argentine Literature, Latin American Literary Review Press, Pittsburgh, 1997.
Marjorie Agosín(ed.), The House of Memory: Stories of Jewish Women Writers of Latin America, The Feminist Press, New York, 1999.
カリブ地域におけるユダヤ人の歴史についての本は以下のものがある。
Harry A. Ezratty, 500 years in the Jewish Caribbean: The Spanish and Portuguese Jews in The West Indies, Omni Arts, San Juan, Puerto Rico, 2002.
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