スペイン・ルネサンスの授業を楽しみながらやっている。「楽しみながら」の中に、半分か半分以上の痩せ我慢が入っている。
セルバンテス『戯曲集:セルバンテス全集第5巻』水声社、2018年。
書影だけ見ても厚さはわかるまい。1000ページをこえている。
「ペドロ・デ・ウルデマーラス」と「嫉妬深い老人」が面白かった。ペドロ・デ・ウルデマーラスは、『ラテンアメリカ民話集』(三原幸久編訳、岩波文庫、2019年)にも入っているような、民話によく出てくる悪漢(ピカロ)。
「嫉妬深い老人」は幕間劇で、『模範小説集(邦題『セルバンテス短篇集』岩波文庫)』のなかの一篇「やきもちやきのエストレマドゥーラ人」とベースは同じ話。
若妻を閉じ込めておく老夫だが、しかしどんな鉄壁の防御にもすきがある。「やきもちやき…」では黒人奴隷が、そして「嫉妬深い老人」では隣家の女が、欲望をもてあます若妻のために手助けするのだ。
小説でも演劇でも、間男を連れ込む/忍び込む手練手管が見せどころということ。エンタメ要素が多いにある。
「やきもちやき…」を読んだときに、これは「やきもち」というレベルではないと思ったが、多分それもあって、こちらの劇作品の訳者は「嫉妬深い」にしたのではないか。女性の性欲を支配しようとしてもできない男の哀しみ。
スペイン・ルネサンスを冠した本といえば、やはり以下のものは抜きにはできない。
増田義郎『新世界のユートピア スペイン・ルネサンスの明暗』中公文庫、1989年。
この本は、そもそもは1971年、つまりはなんと今から50年前に研究社から出版されたものなのだ。それに驚いてしまうが、18年後に書かれた文庫版のあとがきで、増田義郎(1928-2016)は、こういう風に書いた当時のことを振り返っている。
「(前略)戦後まもなく、ふとしたことからスペイン語圏に興味を持ったひとりの人間が、スペイン、中南米、アメリカ合衆国で、本や史料をさがし、読みあさったあげくに、その読書のあとを辿って書いた、スペイン・ルネサンス試論である。スペインの歴史や文化には、われわれを引きつける興味ぶかい事実がたくさんあること、また十六世紀スペイン史は、近現代史の焦点となる多くの問題点をはらんでいることなどを世間に訴えたかったのだろう。」
増田がこの本で言及している騎士道物語、半世紀前には翻訳がなかったが、『ティラン・ロ・ブラン』『アマディス・デ・ガウラ』『エスプランディアンの武勲』までが日本語で読める。
すごいことだ。
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