2016年6月16日木曜日

『モンロー・ドクトリンの半球分割』とその他

すばらしいアメリカ文化研究書が出た。

下河辺美知子編著『モンロー・ドクトリンの半球分割ーートランスナショナル時代の地政学』彩流社。

まだひろい読みなのだが、目次を見ても気分が高揚する。

●モンロー・ドクトリンの半球分割
ー地球(グローブ)についてのメンタル・マップ
/下河辺美知子
●黒い半球
ー『ブレイク』におけるトランスナショナリズム再考
/古井義昭
●ホーソーンとキューバー「ラパチーニの娘」、
『キューバ・ジャーナル』、『フアニタ』
/髙尾直知
●メルヴィルとキューバをめぐる想像力
ー「エンカンタダス」と『イスラエル・ポッター』に
おける海賊(フィリバスター)/小椋道晃
●「善き隣人」のリズムーラルフ・ピアとラテン音楽、
1933 ~ 1945 /大和田俊之
●「長崎の鐘」と(ラテン)アメリカ
ーモンロー・ドクトリンの音楽的地政学/舌津智之
●不確かな半球
ー世紀転換期ハワイにおける日本人劇場建設と
モンロー・ドクトリン/常山菜穂子
●航空時代とアフリカ系アメリカ文学の惑星
ーウォルター・ホワイトのアイランド・ホッピング/竹谷悦子
●南部の西漸と南進
ーゾラ・ニール・ハーストンのクラッカー表象/新田啓子
●近代化された情動
ーカルメン・ミランダとレヴューの終焉/日比野 啓
●モンローは誘惑するーアメリカ最後の一線/巽 孝之

実は今年度の授業でアルゼンチンの教育史の知られざる側面を紹介した文章を読んでいる。アルゼンチンのコラムニスト・ライター、ラウラ・ラモスが新聞で連載したものを、本人から送ってもらった。内容を見て、たいへん興味を惹かれた。

アルゼンチンの教育の父と称されるサルミエントは、19世紀の終わり、北米を旅してボストンでは超絶主義者と深い交流をもった。ホーソーン、ソロー、ホーレス・マン、そしてピーボディ3姉妹らだ。

彼らとの交流を通じ、サルミエントはアルゼンチンにも師範学校を導入しようとする。そして実際にアメリカから女性教師を連れてくるのだが、そう予想どおりうまくはいかない。

ラウラ・ラモスはその顛末を一般向けの新聞に連載した。この5月に彼女が来日したときに授業に来て話してもらったが、このサルミエントの政策は、アルゼンチンではあまり知られていないようだ。おそらく大した成果をあげなかったからだろう。

ラウラはしかし、何かが潜んでいると考え(このあたりがライターの直観だろう)、ネットで調べた。すると、冒険心をくすぐられてアメリカからアルゼンチンまでやって来た女性の回想録や手記が英語で出版されていることを知った。

それらをネットで取り寄せて勉強し、新聞に連載したのである。全20回分あるらしい。いずれ本にまとまるだろう。

ラウラ・ラモスがアルゼンチンにやってきたボストンの女の子たちのエピソードに惹かれたのは、調べていくうちに小さいころの愛読書『若草物語』が、超絶主義のなかから出て来た一作であることを知ったからでもあるらしい。

サルミエントが親しかったのがピーボディ3姉妹だ。そしてこの3姉妹のなかに、キューバ体験をもっている女性がいて文章を残している。このあたりは同じ出版社からでた庄司宏子さんの『アメリカスの想像力』で知ったのだが(この本の存在は南映子さんに教えてもらった)、彼女のことを含めホーソンとキューバも、『モンロー・ドクトリンの半球分割』では扱われている。

その他、ラテンアメリカ研究者にとっては興味の惹かれるものばかりが収められている。今度時間をとってじっくり読みたいと思う。



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