2022年3月19日土曜日

3月19日 コロンビア・カリブの兄貴たち/中東現代文学選2021

中東現代文学研究会[編]/岡真理[責任編集]『中東現代文学選2021』が届きました。プロジェクトのHPはこちら



 


ここに、ルイス・ファヤッド「ベイルート最後の日」を翻訳しました。ファヤッドはレバノン系コロンビア人で、しばらく前からベルリン在住。

ファヤッド氏と面識はなかったので、翻訳するにあたって、コロンビアの研究者に連絡をとり、最終的にご本人とメールのやりとりができました。

彼の本では最近、長編『エステルの親戚(Los parientes de Ester)』が、CátedraのLetras Hispánicasに入っています。

Luis Fayad, Los parientes de Ester, Cátedra, 2019.



Cátedra版の解説を書いているのはホセ・マヌエル・カマチョ・デルガド氏(セビーリャ大学)なのだが、コロンビア・ハベリアナ大学のクリスト・フィゲロア(Cristo Figueroa)がかなり協力したようである。

最近のCátedra版の解説(というか実際には序論ではあるが)はやたらに長く、ファヤッド本の場合には、200ページ以上ある小説の長さには及ばないものの、150ページほどの序論である。長すぎやしないかと思うが、文献目録が充実しているわけでありがたい。ここにはコロンビアでお世話になった人の名前が出てくる。

クリストと最初に会ったのはもう20年以上前のこと、ハベリアナ大学の研究室を訪ねた。その時にはメールでやりとりするようなことはなかったが、2008年ごろだったか、カルタヘナでもう少し親しくなり、今回彼にメールしたらすぐにファヤッド氏の連絡先を教えてくれた。

その頃のカルタヘナには、作家のオスカル・コジャソス(Óscar Collazos)がいた。雑談しているときに、彼がキューバの「カサ・デ・ラス・アメリカス」に招かれ、ちょうど1969年から1970年ごろの緊迫した時代に、あの現場にいたことを教えてくれた。

ラファエル・ロハスの『安眠できぬ死者たち』(2006)が出た後だったからそんな話になった。コジャソスは、1970年ごろのレサマやピニェーラをみていたのだ。

このコジャソスは2015年に72歳で亡くなってしまった。Twitterでの彼のほぼ最後のツィートは忘れられない。病気で入院していることが伝わっていた彼が亡くなったとの誤報を流した記者がいて、本人がそれを否定した。

「まだ吠えている犬を殺すな(No mates al perro que todavía ladra)」

楽園の犬は吠えないなんてコロンブスしか言わない。このツィートから3、4日後、彼は亡くなった。こうありたいものだ。人は死ぬまで生きている。

そしてカルタヘナで知り合って、何から何までお世話になった友人アルベルト・アベーリョも亡くなってしまった。なんと61歳で。アラカタカ行きを手配してくれたのもアルベルトだった。

アルベルト・アベーリョ・ビーベス(Alberto Abello Vives, 1957-2019)は、カルタヘナのカリブ研究所の所長をしていたり、大学で教えていたり、いろんな肩書を持っている人ではあった。

彼が催したフィエスタには、バランキーリャのアリエル・カスティーリョ(Ariel Castillo Mier, アトランティコ大学)も来ていた。その頃、かつて4年連続で通ったバランキーリャのカーニバルに行けてなかったのでアリエルは言った。「バランキーリャはお前を許さないぞ!」

アルベルト・アベーリョ・ビーベスはバジェナート歌手のカルロス・ビーベスの親戚で(と言ったって、大勢いる親戚のうちの一人だが)、カリブのサンタ・マルタ出身。サンタ・マルタ出身者をスペイン語では「サマリオ(samario, samaria)」と言う。

アルベルトは、カルタヘナのバリオを隅々まで知っていて、現金でしか支払えない、地元の人しか知らないような、とても居心地の良いオスタルやレストランに連れて行ってくれたものだ。

観光客が中心のレストランに行ったりすると、こういうところはよくない、もっといいところがあるといいたげだった。どこを歩いてもどこに行っても必ず知り合いがいる町の名士だった。彼からのメールは「AA」で結ばれていた(AlbertoのAとAbelloのA)。

オスカルやアルベルト(やその他の研究者たち)はコロンビアにいる兄貴のような人たちだった。彼らはコロンビアのカリブ地方について、こちらの想像もつかないような大きなリスクを背負って書いているように見えた。

ファヤッド氏の短編を、こうしてコロンビアでの経験を生かして翻訳ができたことはとても嬉しい。オスカルとアルベルトと知り合っていなければ、この作品を翻訳することはなかっただろう。

---------------

いよいよ桜が咲きそうな気配の中でピアノの練習をしたりして、できないところはいつまでたってもつっかえる。

写真は土曜日なのに大学での桜。


0 件のコメント:

コメントを投稿