2021年8月28日土曜日

前便続き

朝鮮戦争とプエルト・リコ作家のまとめとして二冊。

Emilio Díaz Valcárcel, Cuentos, Casa de las Américas, La Habana, 1983.

José Luis González, Mambrú se fue a la guerra(y otros relatos), Joaquín Mortiz, México, D.F., 1975[第二版].

「El arbusto en llamas」が入っているのがこの本。 別の短編では、プエルト・リコ人がハーレム出身かと聞かれ、「いや、ワシントンハイツだ」と答える場面がある。映画『イン・ザ・ハイツ』のワシントンハイツ。

日本語の朝鮮戦争文学も読んでいる。

金石範ほか『朝鮮戦争 コレクション戦争と文学 第1巻』集英社、2012年。

同書所収の北杜夫「浮漂」の一節にはこんなのがある。

「俺は外語を出てからしばらく小さな商社に勤めたが、その頃はそこをやめ、研究生のような形で学校に出入りしていたのだ。いずれは教師の口を世話してもらうつもりであった。」(p.143)

----------
秋の学期のことがだんだん気になってきて、入院もままならない都内の状況ではオンラインも致し方なしという話も出ているが、どうなるのだろう。

2021年8月17日火曜日

朝鮮戦争とプエルト・リコ(2)エミリオ・ディアス・バルカルセル

朝鮮戦争に従軍した作家エミリオ・ディアス・バルカルセルの短編集。すべて朝鮮戦争もので9篇が入っている。前にタイトルだけ触れた「El regreso(帰還)」も入っているが、かなり有名な「El sapo en el espejo(鏡のなかの蛙)」はここには入っていない。

Emilio Díaz Valcárcel, Proceso en diciembre, Taurus Ediciones, Madrid, 1952.


 

プエルト・リコ兵士ロドリゲスは休暇で日本の大阪を訪れ、カズコという女性としばらく過ごし、それが甘美な思い出だ。プエルト・リコに戻る前にもう一度会おうと思っている。「俺は戦争に戻らないといけないんだ、カズコ。俺を待っててくれ。6ヶ月経ったら……」(p.47)

「じっさい、外見上では韓国人と日本人は驚くほど似ていると思う。しかし俺は完璧にそれぞれの言語を区別することができる。日本語は短く断定的だ、命令をするために作られたかのような言語だ。韓国語には甘い響きがある。歴史を通じ、少なからず辱めをうけた民族に特有の言語のように思える。急にある考えが浮かんだーー韓国人の従順さは(少なくとも俺は彼らの中にそれがあると思っているが)プエルト・リコ人の従順さと似ている」(p.29)。

メインストーリーは、髭を剃り落とすよう上官から命じられ、それに従わないことにある。彼にとっては髭は誇りであり文化そのものだから反抗する。切り落とす羽目になった時、「去勢された」と感じる。米軍に所属しているので命令を拒否できないのだが、やはり朝鮮戦争に参加していたトルコの兵士は髭を生やしている。ギリシャやベルギー、コロンビア兵は志願兵なのに……とも(p.106)。

フェリペ・ソラーノの『Cementerios de neón』では、21世紀のコロンビア人が韓国文化と一体化して(さらに極右グループにも近づいて)、北朝鮮を倒そうとしている。この男をソウルで探すのが、半世紀以上ぶりにソウルに戻った帰還兵のコロンビア人。重要な場面になると階級バッジをつける。ディアス・バルカルセルの短篇では、売春宿を訪れたプエルト・リコ兵は階級バッジを見せつける(p.91)。

韓国人の女と関係を持ち、一緒にアリランを歌うプエルト・リコ兵士。韓国人兵士と友情を結んだが、その後、お互いにできない英語でコミュケーションが取れず、仲違いしてしまったプエルト・リコ兵士。怪我を負って帰還したために、恋人と結婚できない兵士。

2021年8月4日水曜日

朝鮮戦争とコロンビア(2)アンドレス・フェリペ・ソラーノ

文藝年鑑(2021)でも少し書いたのだが、コロンビアは朝鮮戦争に兵士を送り、そのコロンビア兵の経験をコロンビア作家が書いている。

その中で、ソウル在住のコロンビア作家アンドレス・フェリペ・ソラーノの『Cementerios de neón』(2016)は、先に紹介したフアン・ガブリエル・バスケスの短篇と並んで、特筆に値する長篇小説だろう。

行方をくらましていた叔父(帰還兵で、戦争中捕虜になった)が突然、ソウルに住む甥を訪ねて、ある依頼をする。叔父の停泊するホテルには戦争中に慰問に訪れたマリリン・モンローの写真が飾ってある。

Andrés Felipe Solano, Cementerios de neón, Tusquets, 2016. 



この『Cementerios de neón』は、本人が兵士として朝鮮半島に行ったプエルト・リコ作家エミリオ・ディアス・バルカルセルによって、戦争のすぐ後に書かれた小説『Proceso en diciembre』(1963)とともに重要な小説である。ちなみにどちらの作品も日本は多かれ少なかれ関わってくる。

アンドレス・フェリペ・ソラーノには、韓国生活の記録『Corea: Apuntes desde la cuerda floja』があり、ここでは冒頭から朝鮮で戦ったコロンビア兵士の話が出てくる。おそらくこのエピソードが下敷きとなって小説が書かれたのだろう。

Andrés Felipe Solano, Corea: Apuntes desde la cuerda floja, Editorilal Barret, 2015.

 


ボゴタには朝鮮戦争の戦死者や帰還兵をたたえるメモリアルタワーがある。そこでの記念式典の模様から物語を展開したのが、フアン・ガブリエル・バスケス(1973年生まれ)。アンドレス・フェリペ・ソラーノは1977年生まれ。