2020年12月19日土曜日

ローラン・ビネ『文明』と網野徹哉『インカとスペイン 帝国の交錯』

ローラン・ビネ(1972年生まれ)の小説で、まだ邦訳は出ていないけれども、内容からして我慢できなくてスペイン語版を入手してしまった。

 

 

Laurent Binet, Civilizaciones, traducción de Adolfo García Ortega, Seix Barral, Barcelona, 2020.

タイトルは、『文明』だが、複数形だから『複数の文明』としておくべきか。

もしこうなっていたら、という歴史もの(スペイン語だとucroníaとかhistoria alternativa)で、インカ帝国最後の皇帝アタワルパが征服者ピサロに捕らわれず、ヨーロッパに逃げ出していたとしたら・・・? 彼は異端審問や印刷術を目の当たりにして、その後は?  

ビネによれば、この本の出発点はジャレド・ダイアモンドの「なぜピサロがアタワルパを捕らえたのか?」というもので、その問いに答えたくなってリマに旅をして・・・ということらしい。

エピグラフは二つ。

一つはカルロス・フェンテス『セルバンテスまたは読みの批判』からで、「芸術は、(大文字の)歴史が殺害したものに命を与える」 。

もう一つはインカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベガ。「連中のてんでバラバラで無秩序な暮らしぶりからすると、征服は実に簡単なことだ」。

450ページくらい。

ちょうど以下の本を読んでいた。

網野徹哉『インカとスペイン 帝国の交錯』講談社学術文庫、2018年。 



学術文庫版あとがきで、網野さん(1960年生まれ)は書いている。

「スペイン帝国の側から、アンデスの歴史に流れ込んでいるなにか不可視の水脈があるのではないか。その刹那、脳裏にある言葉が響きました。当時、私はドミニコ会士フランシスコ・デ・ラ・クルスの歴史的足跡を探求していました。本書にも登場する彼は、その危険な宗教思想を咎められ、一五七八年、異端審問によって火刑に処せられました。その彼が獄中で、なかば狂気にまみれながら発したのが、『インディオはユダヤ人の末裔である!私はその末裔の血を引く皇妃と結ばれ、ユダヤ人の王としてアンデスを統べるのだ!」という叫びでした。(中略)十七世紀の前半に、リマにおいて大きなユダヤ人迫害が発生し、当時大西洋で巨万の富を手にし、アンデス世界に深くくいこんでいたユダヤ系商人たちが、異端審問の業火に焼かれていたことを知りました。(中略)こうして、植民地インカ貴族と、大西洋を躍動したユダヤ人を通じて、スペイン帝国とアンデス世界を結びつける、本書の叙述の基調となる二つの水脈をかろうじて手にすることができたのです。」(358-359)

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