調べものがあってAという本を探す。見つかってそれを読み、ふむふむ面白い、貴重な読書体験をした、というようなことがあったとする。
その後、ふと手元にあるボルヘスの本を繙いてみると、ボルヘスがそのAについて言及している。場合によってはAという本の、根幹となる論旨を手短に説明していたりしている。
こういう体験はよくあることではないだろうか。そうか、ボルヘスがとっくにね、というやつだ。
調べものがあって、『ルカノール伯爵』を読んでいた。ドン・フアン・マヌエルによる説話集(1355年)。どの小話もなんとも今日的な話ばかりで笑わずにはおれない。
その後、なぜだかわからないが、ふとボルヘスの以下の本を手に取った。正確にはボルヘス選の短篇集だ。
Borges, Jorge Luis, Cuentos memorables, Alfaguara, 2012.
ここには、ボルヘスがお気に入りの短篇が12篇入っている。1935年に着想したものらしい。
ポー、ブレット・ハート、コンラッド、キップリング、モーパッサン、チェスタトンなど。
百ページ以上ある『闇の奥』がcuento(短篇)に入っているのはまあともかくとして、ボルヘスからこういった作家が出て来るのもそれほど驚くことではない。(ところでたまたま思ったのは、エドワード・サイードはボルヘスを読んでいたのだろうか、ということだが、これはまた改めて考えることにしよう。)
そしてその選集の最後には、なんと「トレドの大魔術師、ドン・イリャンとサンティアゴの司祭に起こったことについて」が入っていた。
この話は前述した『ルカノール伯爵』の11話である。「忘恩」をテーマとする。
ボルヘスは『汚辱の世界史』でもこの作品をリライトしていた(「待たされた魔術師」)。
そうか、ボルヘスがとっくにね……
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