2017年5月31日水曜日

キューバ映画『Cuba baila キューバは踊る』

監督はフリオ・ガルシア・エスピノサ。

ICAICが創設されて間もない1960年、革命最初期の映画である。

革命より前の時代のハバナという設定。

資金力がない夫婦が15歳になる娘の誕生日を盛大に祝おうとする。当然多くの困難に出会う。場所にしろ音楽にしろ、立派な客を招待するので恥をかきたくない。

15歳の誕生日と言えば、娘が父とワルツを踊るのが定番で、メキシコで一度出たことがあるが、それはそれはかなりのイベントだった。

あくまでブルジョア家庭並みの誕生会を開きたい母親フローラ。彼女はどんどん妄想を膨らませ、おかしくなっていき、夫の上司にまで借金を頼む。娘にも階級が上の男を用意しようとする。それに対し、夫ラモンは気弱で、妻に振り回される。娘には相思相愛の恋人がいる。

そういえば、グティエレス=アレアの『12の椅子』も椅子探しにどんどん深みにはまっていく話だった。『ある官僚の死』もそうだ。

この『キューバは踊る』はメキシコ・キューバの合作で、プロデューサーにマヌエル・バルバチャノ・ポンセの名前がある。メキシコの映画人で、ブニュエルの映画や、ガルシア=マルケス原作の映画も制作している。

気づいたのだが、カルロス・フェンテスの短篇「純な魂」の映画も彼が作っている。『Los bienamados』というもので、2部構成。前半がフアン・ガルシア・ポンセの「タヒマラ」、後半がフェンテスの短篇だ。

2017年5月29日月曜日

キューバ映画『Cuba 58』

「仕事の日」「恋人たち」「新年」の3部からなる映画。1962年。

表題にある通り、1958年のキューバ。

「仕事の日」と「恋人たち」の監督はスペイン人ホセ・ミゲル・ガルシア・アスコー。ガルシア=マルケスが『百年の孤独』を捧げた人物である。

「仕事の日」は警官が夜のパトロールを行った様子をドキュメンタリー風にまとめたもの。ドラッグストア、賑やかなナイトクラブ、娼館などをめぐり、警官が闇世界と通じていることが知らされる。革命前のハバナの享楽的な雰囲気だ。パトカーの中ではラジオの野球中継が流れている。最後はハバナ大学の大階段のところで学生デモを取り締まる。

次の「恋人たち」では、政府軍に追われている男が、革命軍に合流するために連絡係を待っている。舞台(あるいは撮影された場所)はサンティアゴ・デ・クーバらしい。危険を逃れるために恋人役を一人つけてもらう。その二人が過ごす一日。男の方を演じているのはセルヒオ・コリエリ(『低開発の記憶』のセルヒオ)。夜があけ、男はシエラ・マエストラに向かう。女との別れの場面で二人は初めて本名を伝え合う。

「新年」は警察署で三人の警官が地下の拷問部屋(?)で男を拷問をしていると、サイレンが聞こえる。電話で知らされたのは、バティスタが亡命し、革命が勝利したことだ(1959年1月1日)。さて三人はどうするか。逃げるのか、それとも… 三人がいた地下室は一瞬にして牢獄に変わり果てる。脚本に『ベルチリオン166』のホセ・ソレル・プイグが参加している。監督はホルヘ・フラガ。

この「新年」をグティエレス=アレアの『革命の物語』に入れるかどうかで議論があったが、結局入らず、ホセ・ミゲル・ガルシア・アスコーの撮った2本とまとめられた。

2017年5月22日月曜日

ドキュメンタリー『Elián』

1999年から2000年にかけてマイアミのキューバと島のキューバで闘われた「エリアン」の所有権。

その時のドキュメンタリー映画ができたようだ。トレイラーはこちら。 エル・パイース紙の記事はこちら

フロリダ海峡で遭難した時のことを語るエリアンの声。「多分僕のことを覚えているだろう。覚えていないかもしれない。」

当時、多くの作家がこの事件について書いた。その一人にヘスス・ディアスもいる。2000年の1月に書かれたこのコラムのタイトルは「壊れたキューバ」。

最後はこう結ばれている。「(カストロが死んだ後)、キューバはキューバを開くことができるだろうか。つまり、島のキューバ人のみならず、マイアミにいるキューバ人、ディアスポラにあるキューバ人とともに、民主化に向けてキューバを開くことができるだろうか?」

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「いかだ難民 Balseros」をテーマにした映画では、前に書いた『Una noche』の他にもいくつかある。

そもそもは80年代の時点で、マリエル港事件の時にキューバを船ででた人物を使ったフィクション映画があって、それが『スカーフェイス』だ。

ギャング映画としてあまりにも有名になったこの映画の冒頭は、マイアミに着くキューバの船を写したドキュメンタリー映像が使われている。

『ウェストサイド物語』のプエルトリカン・コミュニティもさることながら、『スカーフェイス』のキューバ、コロンビア系移民の描き方はどう見ても問題だ。

実際、イバン・デ・ラ・ヌエスによれば、『スカーフェイス』のヒーローがマリエルっ子(Marielitos)であることに、キューバ人はかなり腹を立てていたという。

キューバ危機をめぐるスパイ映画『トパーズ』(ヒッチコック)にもカストロやゲバラが出てくるが、あれもドキュメンタリー映像を使っていると思う。

2017年5月17日水曜日

メキシコ文学論

Fornet, Jorge, Reescrituras de la memoria, Letras Cubanas, La Habana, 1994.

これがホルヘ・フォルネーが最初に出した本のようである。メキシコ革命文学論。

取り上げられるのは4人のメキシコ女性作家の作品。

ネリー・カンポベージョ(Nelly Campobello, 1900-1986)の『Cartucho』(1931)。

エレナ・ガーロ(Elena Garro, 1916-1998)の『Los recuerdos del porvenir』(1963)。邦訳は『未来の記憶』(冨士祥子、松本楚子訳)。

エレナ・ポニアトウスカ(Elena Poniatowska, 1932-)『Hasta no verte Jesús mío』(1969)。

アンへレス・マストレッタ(Ángeles Mastretta, 1949-)『Árrancame la vida』(1985)。こちらは映画版『命を燃やして』が日本語で視聴可能。

2017年5月15日月曜日

キューバ文学ー老人と海のあいだ

Esteban, Ángel, Literatura cubana entre el viejo y el mar, Renacimiento, Sevilla, 2006.



タイトルではヘミングウェイが言及されているが、実際には出てこない。著者は「老人」(=古さ)と「海」の二つは、共にキューバ文学にとって本質的な何かであるという。

古さは、植民地にとっての宗主国スペインの重みとしてのしかかる。海の方は、ピニェーラの詩の冒頭「いたるところ水の呪わしい環境」として。

となるとヘミングウェイこそキューバ作家ということになる。

それはそれとして、エステバン氏の本は以下のような流れでキューバ文学をたどる。

第1部「失われたテキストを求めて」ーキューバ文学の起源に関する論争
  バルボアの「Espejo de paciencia」を起源として良いのか?1595あたりに書かれ、
  近年発見されたアロンソ・デ・エスコベダの「フロリダ」はどうなのか。最後にこの「フロリダ」が引用される。
 
第2部 ホセ・マルティを巡って

第3部 モデルニスモと「オリーヘネス」から、世紀末までの詩
  ベッケルのキューバ滞在などから「オリーヘネス」など

第4部 ブームから現代までの小説
  カブレラ=インファンテ、レイナルド・アレナス、ヘスス・ディアス、フリオ・トラビエソ、アビリオ・エステベス、レオナルド・パドゥーラなど。

スペイン人ということもあるのだろうが、スペインの作家とキューバの関係、スペインの出版状況についてもかなり詳しく書かれている。

アビリオが『王国はお前のもの Tuyo es el reino』をトゥスケッツ創業者の一人、ベアトリス・デ・モウラに渡したこととか、2006年当時、彼がトゥスケッツ社の仕事をしているとか。どういう仕事かはわからないが。

アンヘル・エステバンといえば、邦訳のある『絆と権力ーガルシア=マルケスとカストロ』の著者の一人である。

2017年5月14日日曜日

ハバナの女の子は神を恐れない

Campuzano, Luisa, Las muchachas de La Habana no tienen temor de dios: Escritoras cubanas del siglo xviii al xxi, Almenara, Leiden, 2016.

今度はキューバの女性作家についての本。タイトルどおり、18世紀から21世紀までの女性の作家をめぐる試論。

タイトルは18世紀の詩から取られている。

1762年、ハバナはイギリスに占領された。11ヶ月に及ぶイギリス占領時代、ハバナの女性たちがその時の経験を詩や手紙に残しているという。

そのうちの一人の名はベアトリス・デ・フスティス・イ・サヤス(Beatriz de Jústiz y Zayas)。彼女は1733年生まれで、1751年に侯爵と結婚。二人の屋敷はアルマス広場の近くにあったとか。

キューバの女性作家といえば、ヘルトゥルーディス『サブ』とメルラン伯爵夫人『スペインの植民地における奴隷』(共に1841)が有名で、もちろん本書でもそれは第2章でとりあげられる。

革命後の識字運動に参加した女性の語りについての文章もある。映画『ルシア』では男性がルシアに字を教えているシーンが出てくるが、識字運動を行ったのは大半が女性だった。

Almenara出版は次々にラテンアメリカ文化や文学の批評書を出している。




2017年5月13日土曜日

キューバ文学における黒人表象

最近届いた本。

Uxó González, Carlos, Representaciones del personaje del negro en la narrativa cubana: una perspectiva desde los estudios subalternos, Editorial Verbum, 2010.



サバルタン・スタディーズから見たキューバ文学における黒人表象。
目次は以下のとおり。

第1章:理論的背景ーサバルタン・スタデーズについて
  ラテンアメリカのこの分野の研究状況など

第2章:キューバにおける黒人
 植民地時代ー奴隷、逃亡奴隷、解放奴隷
 共和国時代
 革命以降

第3章:キューバ文学における黒人

第4章:新世代作家たち(Los Novísimos):80年代後半から90年代以降の作家たち
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こちらは前から持っていたが、しばらく見つからなかった本。

Quintero Herencia, Juan Carlos, Fulguración del espacio: Letras e imaginario institucional de la Revolución Cubana(1960-1971), Beatriz Viterbo, Rosario, 2002.

主にCasa de las Américasについての研究。

2017年5月5日金曜日

キューバ:イバン・デ・ラ・ヌエス編『キューバと未来』

2001年のキューバ本。

Iván de la Nuez(ed.), Cuba y el día después: doce ensayistas nacidos con la revolución imaginan el futuro, Mondadori, Barcelona, 2001.

キューバの未来について、革命後に生まれた12人が書いたエッセイ。

序文:イバン・デ・ラ・ヌエス
1 アントニオ・ホセ・ポンテ
2 ビクトル・フォウレー
3 ラファエル・ロハス
4 ホセ・マヌエル・プリエト
5 エンマ・アルバレス-タビオ・アルボ → 初めて見る名前
6 "トネル"、アントニオ・エリヒオ・フェルナンデス
7   エルネスト・エルナンデス・ブスト
8   エミリオ・イチカワ
9   ホルヘ・フェレール
10   オマール・ペレス
11   エナ・ルシーア・ポルテラ
12    ロランド・サンチェス・メヒーアス

序文「別の未来を前にした新しい人間」の冒頭を要約しながら訳したのが以下。

クローンと遺伝子操作に開かれた時代。情報技術、インターネット、ヴァーチャル・リアリティが拡大する時代。最も大胆な構想のSF小説が夢に見た時代。そういう時代にあって、私は12名のキューバ人作家に、我が国の未来について考えようと声をかけた。

キューバの未来を考えるということは、キューバと彼らの居場所が来るべき時代にどこに位置するかについて考えることを意味している。考えることはしかも、前倒しして実際にそうしているようなものだ。

彼らは革命の子供達、そして書物の文化の子供達である。彼らは、革命と書物の文化が危機的な状況にある未来に生きるだろう。

最もラジカルな人は、革命も書物の文化どちらも消えると言っている。まともな人でも、今日までそれらが意味してきたものとはすっかり変わった状態で生き続けるといっている、そんな未来だ。しかし、彼らの言葉の出発点は革命であり、書物の文化なのである。

2017年5月4日木曜日

キューバ文学:サムエル・フェイホー

サムエル・フェイホー(Samuel Feijóo)はキューバの作家。1914年生まれで1992年没。

農村や民衆に伝わる小話や神話などを収集している。絵やイラストも書いている。 雑誌「Islas」や「Signos」を編集出版した。

1960年代にソ連に行き、かなり長い紀行を雑誌「Islas」に掲載しているらしいのだが、それは手に入らない。

彼の原作で映画化されたのが『Aventuras de Juan Quin Quin』(フリオ・ガルシア・エスピノサ監督、1967年)。

手元にあるのは収集した民話を集めた以下の2冊。

Cuentos populares cubanos de humor, Letras Cubanas, La Habana, 1981.

Mitología cubana, Letras Cubanas, La Habana, 1996[1986].

民話を一つ。

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「悪い主人」

黒人奴隷が主人と田舎を歩いていた。橋を渡るとき、主人が川に落ちる。泳げない主人は黒人に叫び始める。
「おい、黒んぼ、助けてくれ。自由にしてやるから」
黒人はそんな約束に喜んで、助けてやる。しかし主人は約束を守らない。
別の機会にまた同じことが起きる。主人は約束し、奴隷が助け、やはり主人は約束を守らない。
3度目、主人は溺れかかり、 奴隷に自由を約束する。奴隷は主人に言う。
「もし助けて欲しいなら、川の中でサインしな」
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フェイホーという名前はアルモドバルの映画『ジュリエッタ』にも出てきた。ガリシアの漁師だという男の姓がフェイホーだった。

映画『ムーンライト』でシャロンの育ての親になるフアンはキューバ人で、彼がシャロンに語る月光の青さ(ムーンライト)は多分キューバで聞いた話なのだろうと思う。ケヴィンはマイアミでレストランを開くが、それはどうやらキューバ料理レストラン。

2017年5月3日水曜日

キューバ文学関連(ディアスポラものと推理もの)[2019年12月16日書影追加]

来月こちらに出ることもあって、このところはキューバ文学関連の本ばかり。

Portuondo, José Antonio, Astrolabio, Editorial de arte y literatura, La Habana, 1973.



この本はキューバの「警察小説」を論じた古典的エッセイ集。

「探偵小説について(En torno a la novela detectivesca)」
「ラテンアメリカの推理小説(La novela policial en Hispanoamérica)」
「革命警察小説(La novela policial revolucionaria)」

などが入っている。

キューバにおけるこのジャンルの隆盛について論じた最新のものが以下の研究書。

Wilkinson, Stephen, Detective Fiction in Cuban Society and Culture, Peter Lang, 2006.



それから、島を出たキューバ作家についての論考が入っているのが以下のもの。

Fornet, Ambrosio, La coartada perpetua, Siglo XXI, México, D.F., 2002.




この本の前に、アンブロシオさんは亡命・移住キューバ作家のエッセイを編んでいる。

Memorias recobradas: Introducción al discurso literario de la diáspora(Selección, prólogo y notas de Ambrosio Fornet), Ediciones Capiro, Santa Clara, 2000.



アンブロシオさんは、ホルヘ・フォルネーの父親。

ほぼ同じ頃に出た、キューバ・ディアスポラ作家短篇集が以下のもの。

Isla tan dulce y otras historias: Cuentos cubanos de la diáspora(Selección y notas de Carlos Espinosa, Introducción de Francisco López Sacha), Letras Cubanas, La Habana, 2002.